空前絶後の選挙エンタメ映画「れいわ一揆」 あの熱狂を問い直せ!原一男監督が放つ怒涛の4時間

黒川 裕生 黒川 裕生

2019年夏の参院選で旋風を巻き起こしたれいわ新選組の候補者たちを追った原一男監督の新作ドキュメンタリー映画「れいわ一揆」が、9月11日のアップリンク渋谷(東京)を皮切りに、順次、全国で公開される。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、当初予定していた4月の公開が延期に。さらにその間、山本太郎代表の東京都知事選出馬や、参院選の候補者の1人だった大西恒樹氏による「命の選別」発言を巡る処分など、党は激しく揺れ続けた。一時は「なんて不幸な映画なんだ」とタイミングの悪さを呪ったという原監督だが、今は「党が迷走している今だからこそ、あの夏の熱狂の意味を問い直すことが必要」と力を込める。

「ゆきゆきて、神軍」(1987年)や「全身小説家」(94年)、「ニッポン国 VS 泉南石綿村」(2017年)などで知られる原監督。「れいわ一揆」は「女性装」を貫く東京大学東洋文化研究所の安冨歩教授を軸に、拉致被害者家族連絡会の元副代表や、重度の障害者、元派遣労働者ら、山本代表の誘いで参院選に挑むことになった多彩な候補者たちによる前代未聞の選挙戦をダイナミックに描いている。

れいわ新選組に「世の中が変わる」高揚感

「れいわ新選組の登場には、夢がありましたね。今まで政治に関わりのない生き方をしていた人たちが、山本太郎によって目を開かされたという確かな手応えがあり、私も『これから世の中どう変わるんだろう』とわくわくしながらカメラを回しました」

完成した映画は昨年秋の東京国際映画祭や今年1月のロッテルダム国際映画祭などで上映されて注目を集めたが、一般公開を前にコロナ禍が直撃。やむなく公開延期を決めた原監督は、「50年の映画人生で初めての経験」に全身から力が抜けてしまったという。

しかも延期中の6月以降、山本代表が都知事選に出たり、「命の選別は必要」と発言して批判を受けた大西氏が除籍処分になったり、党のあり方を疑問視して参院選候補者だった野原善正氏が離党したりと、れいわ新選組は混迷を深めていく。それでも原監督は「今はぐちゃぐちゃかもしれないけど、1年前の選挙戦には間違いなく“美しいもの”があり、私を含むそれを信じた人たちの思いも純粋でした」と振り返る。

「公開が延びたことで、映画に違う“意味”が生まれた。れいわ新選組と支援者たちの熱さ、美しさを見て、『これは何なんだ』と思ってほしい。かつて支持した人が『山本太郎に騙された』と言いたくなる気持ちはわかります。でも『何かが変わる』と感じたあのときの自分をもう一度信じ、それぞれがやるべきことをやっていかないと、社会はいつまでも良くなりませんよ」

「この映画はひとつの政党や誰かの話なのではなく、実はひとりひとりの『私』の話でもあります。あなたの一揆は何?私の一揆は?と互いに問うことで、エネルギーの渦をあらためて巻き起こしていきたい。それこそが民主主義だと思うからです」

山本代表や党本部への不信感

「PR映画を撮ったつもりはない」と語る原監督だが、撮影中、れいわ新選組に共鳴していたのは、作品が放つ熱量からも明らかだ。「10人の放つ言葉は本当に魅力的で、刺激的でした」。その半面、山本代表や党本部とは、最初から最後まで完全に没交渉だったという。

「とにかく不可解なのは山本代表。最初に電話で『撮影します』と仁義を切り、後日、党の事務所で挨拶しようとすると、『声を掛けるな』と言わんばかりのものすごいバリアで無視されたんです。不思議に思いながら、その後も機会を見つけて何度も声を掛けましたが、『ちょっと忙しいんで』などと一切応じてもらえませんでした。選挙後の候補者インタビューも、彼だけ拒否。どうしてここまでとことん私たちを無視し、拒絶するのかが理解できず戸惑いました。その不信感はいまだに消えていません」

東京国際映画祭に招待したときは、党本部が「事前に映画を見せてほしい」と要求。会場のプレミア上映で見るよう求めたが、「確認したいことがある」の一点張りで埒が明かない。仕方なく完成前の素材を送ると、今度は返事がなく、結局映画祭にも現れなかった。

それとは別に、選挙運動中のある場面を映画からカットするよう求められたこともあったという。「彼は何を警戒しているのでしょうか」と原監督は首をひねる。

「映画の冒頭にある通り、山本代表は最初の電話で撮影を快諾してくれているんです。あの場面を見た人は誰もが『気持ちのいい人だな』と感じるはず。彼のことは今でも本当によくわかりません。ただ事務所のスタッフは、現場でものすごく親切でした。それはきっと、山本代表が配慮してくれたからなのだと思います」

コロナ禍、れいわ新選組のトラブル、党本部と原監督側との不可解な軋轢など、とにかく一筋縄ではいかない映画「れいわ一揆」。しかも上映時間は4時間8分である。

「4時間なんて屁でもないですよ。つまらない拷問のような時間ならともかく、誰も見たことのない選挙エンタテインメントで面白いんだから、いいじゃないですか」

9月11日からアップリンク渋谷、同18日からアップリンク京都、同19日から大阪の第七藝術劇場。その後も全国で順次ロードショー。

「れいわ一揆」公式サイト http://docudocu.jp/reiwa/index.php

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