主人公・坊や哲を演じる斎藤工が、戦後から2020年にタイムスリップし、ふんどし姿で日本中を席巻する麻雀スターを大熱量で怪演──。『凶悪』や『孤狼の血』で知られ、現在の日本映画界のキーマンでもある白石和彌監督にとって、公開中の監督作『麻雀放浪記2020』は初のコメディ映画だ。
しかし、同映画の出演者であるピエール瀧(本名:瀧正則)被告が麻薬取締法違反の罪で起訴されたことから、コメディ色が一変。大阪市内でおこなわれた先頃(4月6日)の舞台挨拶も、華々しいイベントになるはずが、どこか重々しくて澱んだ空気が会場内を包んでいた。
その後の記者会見でも、瀧被告に関するコメントを求められた2人。斎藤は「どう立ち直るか、共演者として見守る責務がある」、白石監督は「『凶悪』からずっと一緒に映画を作ってきて、監督として自分を引き上げてくれたのは、間違いなく瀧さん。彼の才能と人間味への想いは変わらない。友人として、協力すべきところはします」と語るしかなかった。
破天荒で笑える映画とは真逆の、ムズがゆくて神妙なこの現実。筆者と白石監督は以前から交流を持っていたこともあり、記者会見終了後、こちらのもとへ歩み寄って来た監督は「今までで一番のバカ映画を作ったのに、こんなことになってしまったのは辛いですよ」と、目線を下げながら本音を話してくれた。
国会議員からのクレーム報道の真実
振りかえれば今年の1月、国会議員向けに本作試写会が実施された際、「戦争の影響で2020年の東京五輪が中止になる」というストーリー設定にクレームが入ったとのニュースが流れ、すでにこの時点で「公開危機」という言葉が使われている。白石監督にそのクレームの内情について尋ねてみると・・・。
「今、麻雀は健全な競技としてオリンピック競技の候補に挙がり、(麻雀を推進する)議員連盟もできました。そこで、本作と一緒にアピールしようという話が出たのでご覧いただいたのですが、『健全さを広めようとしているのに(劇中に)イカサマとか出てきたら、コラボできない』とみなさん半笑いだったんです。『五輪中止とか、さすがに無理!』って。それが報道では『圧力』という言葉になり、報道も宣伝も誤解が生まれて。(議員からのクレーム報道は)炎上したくないから、事実をツイートしないようにしていたんです(苦笑)。お騒がせしてすみませんでした」(白石監督)
また、逮捕やクレームといった思いがけない出来事が起こったとはいえ、通常は当たり前のようにある公開前のマスコミ試写なども、宣伝戦略上、あえて実施しなかった同映画。白石監督曰く「今までで一番のバカ映画」でありながら、その内容(おもしろかろうが、なかろうが)が世間に伝えられる機会を配給元の東映が自ら放棄し、その代わりに意図しない誤解だけが流れてしまった。本来語られるべき「映画のおもしろさ」が消化不良を起こしてしまった感ある。
「作品に罪がない」という作り手の姿勢
白石監督は、「作品に罪がないのはあくまで原則」と語る。一方で、「どこかのワイドショーで、『人殺しでも同じことが言えますか?』と聞かれたけど、そんなわけないじゃないですか。映画のなかで瀧さんが禁止薬物を使用しているシーンが仮にあればそれも難しいし、禁止薬物を認めることなんてありえない。ただ、上映する姿勢を持つのは作り手として当然。そこから出る賛否両論を受け止めるのも僕らの役割です」と語気を強めた。
「いわくつき」という札がぶらさがってしまった映画『麻雀放浪記2020』。ピエール瀧被告の出演シーンがやってくると、確かに事件のことが頭をよぎる。だが、それらの印象をぶっ飛ばすくらいパンチの効いた描写が連発し、大笑いさせてくれる。間違いなく力作なのだ。
(Lmaga.jpニュース・田辺ユウキ)