2017年からミュージシャンとして活動を始めたサチウスコさんは、躁鬱(そううつ)病を抱えています。そんな彼女がピアノを弾き始めると、そばに来てじっと見守っているのは雑種のユキちゃんです。くしくもミュージシャンデビューした同じ年にこの家にやってきた保護犬です。以来、お互いになくてはならない存在になりました。
先住犬が亡くなって半年後に出会った保護犬
ペットショップで購入し、子どものころから一緒にいてくれたチョコ(ラブラドール・レトリバーの男の子)が亡くなって半年が経っていました。その間、両親もサチウスコさんもぽっかり心に穴が空いたようでした。
そんな時、SNSで知ったのが保護犬カフェの存在です。そのカフェのホームページにアップされていた真っ白な犬の写真が目にとまりました。そして「保護犬カフェに行ってみたい」と思い、初めて訪れたのが2017年1月のこと。写真で見た犬は、1匹でおとなしく遊んでいました。
「生後4カ月ぐらいの雑種犬で、野良犬として和歌山で保護されたということぐらいしか、情報はありませんでした」
そのときは保護犬カフェってどんなところかなぐらいの気持ちで訪れたのに…。その日のうちに引き取ることになりました。
ユキちゃんはファン第1号
真っ白な姿を見て、アニメ「アルプスの少女ハイジ」に出てくる白くて可愛い仔山羊が浮かんだそうです。よって、名前も山羊と同じ「ユキちゃん」にしました。
サチウスコさんは、ちょうどユキちゃんが来た2017年にピアノで弾き語りをするミュージシャンとしてデビューし、現在はグランフロント大阪&FM802公認の「MUSIC BUSKER」としても活動中です。いまでは多くの人が集まる場所で堂々とピアノを演奏し、歌っていますが、実は中学時代に不登校になって躁鬱病を患い、メンタルクリニックに通っていました。
躁鬱病は完治はしておらず、いまでも浮き沈みがある状態だといいます。そんな彼女をそばで見守っているのがユキちゃんです。
「気持ちが俯(うつむ)いた時、重い気持ちでいると、ユキちゃんがリビングでくつろいでいたりして、それを見て心が癒されたことは一度や二度ではありません」
一方、ユキちゃんもちょっと気弱なタイプ。「人懐っこいんですが、成犬になってから怖がりになり、車道の車にびくびくしたり、ちょっとした騒音に驚いたりと、敏感です」
そんなユキちゃんを癒す音があります。それは、サチウスコさんのピアノの音色と歌声。弾き語りが始まると、ユキちゃんはリラックスした体勢で耳を傾けます。
「ユキちゃんが聴いてくれているので、がんばれるのかもしれない。それに、ユキちゃんが最初に私の曲を楽しんでくれるので、ファン第1号のような存在ですね」
かけがえのない存在
一軒家に住むユキちゃんはリビングで寝起きしていたのですが、2018年6月、大阪府北部地震に見舞われてからはサチウスコさんのお母さんの部屋で就寝するようになりました。「災害時に何かあったとき、そばにいれば助けられると考えて母の部屋にゲージを置くようになりました」。それだけ、ユキちゃんは家族にも愛されています。
「最初は保護犬だからかわいそうと思って飼い始めました。しかし、ユキちゃんが来てからは両親をはじめ家族みんなが和み、家の中の雰囲気も柔らかくなりました。ユキちゃん以上に私たち家族が幸せになっていると思います」
ユキちゃんを引き取ったことがきっかけで、サチウスコさんはペットを巡る様々な問題も知るようになったといいます。「繁殖犬や、お店で売れ残った犬が劣悪な環境で飼育されていたり、飼育放棄されたりしている現状を少しでも減らすために、ペットショップではなく保護犬を引き取るという選択肢が当たり前になってほしいと思っています」
そして「一度家族に迎えた動物は、その命が終わるまで責任を持って飼ってほしい。殺処分される犬がゼロになることを願っています」と訴えるサチウスコさん。彼女の横には幸せに暮らしている保護犬のユキちゃんの姿がありました。