昨年10月に消費税を10%に引き上げた際、消費の落ち込みを防ぐために、政府はクレジットカードなどで商品を買うと、ポイント還元できる制度を期限付きで始めました。この背景には、日本人には根強い現金決済の傾向があるために、諸外国なみにキャッシュレスで決済する社会の構築を目指したことがあるでしょう。ですが、国がキャッシュレス社会を目指すより先に、詐欺師の方が先にキャッシュレス化を進めていたことをご存じでしょうか?
昨年12月から今年にかけて、大阪の50代男性のもとに電話会社をかたり「有料サイトの未納料金がある」というメッセージが送られてきました。ここに載る番号に電話をしたのをきっかけに、1億円を超えるお金をだまし取られています。そのうち電子マネーで支払った額は780万円にも上っています。
これまで、私もメールやショートメッセージを利用して架空請求を行う業者にたびたび電話をかけていますが、詐欺師らは「コンビニに行って、プリペイドカードを買って、未納料金分を払ってください」といいます。
ご存じとは思いますが、このカードの裏には14桁ほどの数字が書かれており、この番号をネット上で入力することにより商品を買えるようになっています。詐欺師らはコンビニで購入した電子マネーの番号を聞き出すことで、その金額分を詐取します。そして一度だました相手には「支払っていない滞納金がもっとある」と畳みかけて、次々に電子マネーを買わせたり、現金を郵送させてお金をだまし取ります。
昨年、タイのパタヤで詐欺の電話をかけていた大規模グループが逮捕されましたが、彼らが行っていたのも電子マネーをコンビニで買わせる手口でした。しかも、最初は手持ちの数万円程度を要求することが多く、スマホを使う10代から高齢者までの幅広い人たちが被害に遭いました。今は必ずしも、お金をたんまりと家に持っている人だけが狙われるわけではないのです。
この背景には、「現金を要求されたら、詐欺と思え」という注意喚起が人々の心に徹底されたあるでしょう。「お金」というワードを出すと、詐欺がしづらくなった。そこでキャッシュレスな手段も加えて、金をだまし取ろうしてきているのです。
警察庁が発表した令和元年の特殊詐欺の被害状況を見てもそれがわかります。電子マネーを使った詐欺の認知件数1491件で前年度より減少していますが、被害額は11億8千万円と増加しています。また、キャッシュカードをだまし取られる被害も深刻です。
一般的な手口としては、百貨店などの店員をかたり「あなたのクレジットカードでバックを買おうとした人がいました」と電話をかけます。その後に警察などを装い「個人情報が悪用されて、勝手にクレジットカードを作られた」といい「銀行のキャッシュカードも作られて、不正に金を引き出されているかもしれない」と相手を不安に陥れます。そして「キャッシュカードを変えた方がよい」などといって、家に銀行関係者などがやってきて、カードをだまし取ります。当然、暗証番号は電話などで事前に聞き出されているので、お金は引き出されてしまいます。
こうしたキャッシュカードを直接にだまし取る手口での令和元年の被害件数は5322件で56億円。また、家に偽の警察が来て、封筒を渡して「この中にカードを入れるように」といい、家人が目を離した隙に偽のカードが入った封筒とすり替えて、キャッシュカードを盗む手口は、3773件で51億1千万円となってます。なんと令和元年の特殊詐欺の認知件数の54%に上っており、お金をATMから振り込ませたり、直接に現金を家に取りに来るよりも多くなってきています。
現金でなく、キャッシュカードを取ることで、相手に詐欺だと悟られないようにしているわけです。詐欺師たちのお金をだまし取るためのキャッシュレス化は、今後もさらに進むものと思われますので、より注意が必要になってきます。