「関ヶ原って…“密”だよね」天下分け目の合戦図に描かれた「ソーシャル・ディスタンス」が話題

広畑 千春 広畑 千春

 コロナ禍の中、各地で趣向を凝らしたソーシャル・ディスタンスの呼びかけが話題になっています。埼玉県の忍(おし)城にある行田市郷土博物館のポスターもその一つ。モチーフにしてあるのは、同館が所蔵する関ヶ原合戦図屏風(江戸後期)の一部。長槍を手ににらみ合う武士の間合いは、確かに約2m…。まさに「社会的距離」!?

 忍城といえば、豊臣秀吉の小田原攻めで、石田三成による水攻めを耐え抜いた難攻不落の「浮き城」として知られる城。ポスターは、そんな名城にある同館の常設展示室の入り口を入ってすぐ、フロア案内図の脇など3カ所に貼られています。

 「間を空けて見学しましょう」という圧の強い文字の下に、長槍を手に絶妙の間合いで対峙する武士の絵。方や、入り乱れて戦う侍の絵には赤い✖印と「密です!」という言葉が…。7月半ばにこのポスターが登場するや否や、訪れた県民らから「間合いに入ったら即死」「面白い」「家に持ち帰りたいぐらい」との声が続々と寄せられているそうです。

 ―シブいですね。

「ありがとうございます。当館もコロナの影響で、2月末から臨時休館し、6月2日からの再開にあたって感染拡大防止を呼び掛けるポスターを作ったんですが、武士バージョンになったのは7月半ばからで、最初は一般的なピクトグラム(絵文字)と文字だったんです」

 ―それがなぜ、関ヶ原合戦図屏風に?

「再開時にベンチの椅子を一つずつ開けて頂くため、当館所蔵の甲冑の写真を貼っているんですが、これが結構評判が良かったんです。一方、7月以降は来館者も次第に増えてきて、より目に着きやすく、かつ楽しめるものを―と考えていた時、春先に学芸員同士の雑談で『関ヶ原って“密”だよね』という話題が出たことを思い出し、改めて観察してみたところ、密だけでなく間合いを取った足軽も描かれている!と気づいたんです」

 ―身を守るための「間合い」の大切さは時空を超える―ということでしょうか。

「分かりません。が、絵は現物で加工は一切しておりません。描かれている長槍の長さが約2mですから、ソーシャル・ディスタンスで言われる距離とほぼ同じですね。これ以上入ると…やはり危ないですよね」

 ちなみに関ヶ原合戦図屏風は、大阪歴史博物館蔵の屏風(八曲一双、国重要文化財)を始め全国に数種類あり、行田市郷土博物館のものは三つの折山の屏風が二連続いた「六曲一双」で、縦126cm×横324cm。徳川家康の本陣に、鎧を納める櫃(ひつ)が描かれていることなどが特徴といいます。

 埼玉県出身で岐阜県知事も務めた故・湯本義憲氏が知事時代に贈られたものを譲り受けたもので、行田市の有形文化財にも指定されており、「他の博物館での展示や各種メディアで取り上げていただく等の機会も比較的多く、当館らしさを感られる資料では」と同館。「ユニークな掲示物はこれまであまり作成したことがなく、不安も少しあったのですが、温かく受け止めていただき大変ありがたく思います」と話してくれました。

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