突然現れた猫は腸骨骨折、しかも妊娠していた! 手術できる獣医師は数少なく…10年間貯めた貯金半分を治療費に

渡辺 陽 渡辺 陽

ある朝、突然玄関に下半身を這わせて鳴き叫ぶ猫が現れた。診察してもらうと、猫は腸骨骨折していた。先住猫もいたので、飼うのか飼わないのか、高額な治療をどうするのか決めなければならず数日様子を見守ったが、猫の具合が悪くなり、急いで腸骨骨折の治療ができる獣医師のもとへ。猫は骨折だけでなく、妊娠していた。

突然玄関に現れた下半身を這わせた猫

2020年2月14日、東京都に住む下山さんは、コロナ疎開して実家のある青森県に帰省していた。出かけようとして玄関の扉を開けたら、1匹の子猫が下半身を這わせながら目の前に現れた。ニャーニャー大声をあげて鳴いていたという。

「脚の形が変だったんです。持ち上げてはいけないと思い、物理の慣性の法則を思い出し、板にスライドさせるように乗せました。すぐに動物病院に連れて行くと、お腹が脈打つようにひくひく痙攣していて、叩かれたかもしくは蹴られたと思うと言われました。このあたりは地域猫問題が勃発していて、猫に厳しい地域。猫にものを投げつける人もいるんです」

 マイクロチップは入っておらず、胃の残留物を調べると草や泥を食べていたので、捨て猫だろうと獣医師は言った。

腓骨骨折、そして動かなくなった

レントゲン撮影をすると腸骨骨折していた。きれいに折れていて、腸をふさいでいるわけではなかった。青森県内で腸骨骨折の手術ができる獣医師は2人しかおらず、費用は50万円くらいかかるということだった。また、自然治癒するのを待つ方法もあると言われ、いったん考えることにした。痛み止めはモルヒネしかなく、発狂して死んでしまうので処方できなかった。

下山さんは、エリザベスちゃんという猫を飼っていたので、飼うのか飼わないのか決めなければならず、時間が必要だった。ひとまず勝手口に仮設の居場所を作ったという。

エリザベスちゃんは、落ち着きがなくなって威嚇した。

獣医師は排泄できるし、食べられると言ったが、トイレにいても何も出ない。食欲もなかった。2日目くらいからお腹が張ってきて、手にしがみついたままごろごろ喉を鳴らして動かなくなった。

何をやっているんですか!?

4日目、下山さんは、手術ができる獣医師を紹介してもらい、急いで猫を連れて行った。「あなたたち、何をやっているんですか!」と怒られた。便がぱんぱんに詰まって、腸が壊死しかけていたのだ。2月20日、即入院。浣腸をしたら便は出てきたが、妊娠していることが分かった。お腹には6匹の子猫がいた。骨折していたので出産はできず、堕胎するしかなかった。

「人に虐待されたのではなく、どこかから落下したのかもしれないが、おそらく赤ちゃんをかばったのだろう」と獣医師は言った。

骨折の手術は母体に負担が大きくかかるのでできず、ひとまず堕胎することになった。猫は、赤ちゃんがいなくなったことが分かるのか、見舞いに行くとぐるぐる回っていたという。骨を再生するホルモンが分泌されるのは骨折後1カ月まで。それ以上経つと癒着することもあるため、1日も早く処置する必要があった。子猫を失った悲しみから早く立ち直り、元気になるよう、1日も欠かさず見舞いに来るように言われた。

幸せにしたい

一週間もすると元気になったので、骨折の手術をすることになった。手術は無事終わり、3月23日に退院した。

「38日間の入院中、毎日お見舞いに行ったのですが、最初は威嚇していた猫が、私の顔を見ると喜ぶようになったんです。ママと言うように見てくれました。だんだん愛情がわいてきて、欲しい車を買うために10年間貯金していて、やっとその車が出てきたのですが、車に充てるお金の半分を治療費に使いました」 

名前は桜子ちゃんにした。

エリザベスちゃんは、まだ治りきっていない桜子ちゃんに高速猫パンチを繰り出した。下山さんは、桜子ちゃんを自分の部屋に入れて隔離した。エリザベスちゃんは、「私も入れて」とドアの前でアオン、アオンと鳴いていたという。

次第に2匹は一緒に遊ぶようになったが、いまでも下山さんの取り合いになる。

桜子ちゃんは左脚が神経麻痺になった。周りの人は「かわいそう」だと言うが、下山さんは、そんなふうには思わないという。人とか猫とか種別を超えて愛おしいんです。幸せにしてあげたい、与えたいという気持ちでいっぱいです。

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