マスク荒れで悩む女性の力になりたい…美容室社長が始めたサロンキットのデリバリー

金井 かおる 金井 かおる

 新型コロナの感染予防のため続くマスク生活。夏になり、「マスクの中の汗が不快」「皮膚がめくれる」「肌荒れがひどくなった」といった女性たちの肌の悩みを聞くことが増えました。そんな声は美容室の社長のもとにも届いていました。

 1948年創業の「美容室エリザベス」(神戸市東灘区)は、サロンと同じエステキットを自宅にデリバリーするサービス「BeautiCle(ビューティクル)」を開始しました。女性たちのマスク荒れを知った同社代表取締役八木隆幸さんらが考案。コロナ時代のヘアサロンや美容について、八木さんに話を聞きました。

サロンのエステキットをデリバリー

 同社が5月1日にスタートした「ビューティクル」とは、自宅でサロン気分を味わえるキット「おうちでエステキット」の宅配サービスのこと。「透明感ゆらぎ肌コース」と「超集中美白肌コース」から好きなコースを選ぶと、プロが選んだメイク落としや化粧水、美容液などが届きます。

 サロンと同じと聞くと、プロ仕様の高級品が一気に届くのでは…と身構えてしまいますが、今回の新サービスは2回分だけのお試しサイズ。サロンで施術すると1回8500円の内容が、2回分の容量5000円(税別)でお試しできるそうです。「実質、1回分2500円です」(同社)。手順やコツがわかるユーチューブ動画も公開しているため、お手入れの知識がなくても安心だそうです。

 「コロナ感染予防の影響で、マスク荒れに悩んでいる人は本当に多いと感じています。ぜいたくなエステキットを安価で、継続して使っていただきたいという思いからスタートしました。リラクゼーション効果のあるオイルも入っているので、生活習慣や生活様式の変化、自粛疲れなどのストレス解消にもおすすめです」(八木さん)。

亡くなった母だったら…

 -エステキットのデリバリーを始めるきっかけは?

 「きっかけは弊社創業者と2代目の思いです。それは『常にお客様のことを考えて、お客様のために全力を尽くす』です」

 八木さんによると、5年前に2代目だった母親が急逝し、ほぼ同時期に八木さんが3代目を継ぐことになりました。美容室の経営については、サロンの常連客や取引業者、従業員たちの思い出話から教わったといいます。その中でも特に八木さんの心に刺さったのは、1995年に神戸を襲った阪神・淡路大震災の際の先代たちの奮闘ぶりでした。

 「弊社は当時、神戸・三宮に店舗があり、自分たちも被災者でした。しかし、『こんな時だからこそお客様に髪の毛や見た目だけでも美しくなってほしい。きれいになれば、被災して落ち込んでいる神戸を少しでも救うことが出来る』という思いから、被災1週間でライフラインをなんとかやりくりして、お店を再開させました。『無償で髪の毛をきれいにしますよ』と常連のお客様たちに連絡し、カットをしました。『震災の時はお母さんにお世話になったのよ』と、いまだにたくさんのお客様から聞きます」

 -先代の震災経験がコロナに生かされた?

 「コロナが蔓延し始めた3月ごろから、1歳年上の姉であり、エリザベスの3代目技術継承者の八木香保里と『母だったらどうしているだろうか』をテーマに話し合いを重ねました。そして、今の自分達がお客様に出来ることをしようとアイデアを出し合い、ビューティクルが生まれました」

 「コロナが震災の時と違う点は、美容室に行きたい、でも感染が怖いから外出できない。震災の時と同じ点は、自粛で気持ちが落ち込んでしまう、先行きのめどがたたず不安。このような悩みを解消する手助けをしたいと考えています」

コロナは「悔しい」

 -この春は外出自粛のため、美容室に行けない人がたくさんいたと思います。

 「弊社代表としてとても悔しい気持ちでした。当サロンは一定の周期(2週間ー1.5カ月)で来られる方がほとんどなので、お客様は髪の毛や頭皮、フェイシャルの状態にストレスを感じているだろうなと思いました。美容室は国や県からは休業要請の対象外でありながら、来店を呼び掛けることは外出を促すことに繋がるということもあり、その矛盾が悔しかったです」

 -コロナ対策も大変だったのでは。

 「店内のセット面を4席から3席に減らし、レイアウトや店内換気も変更しました。予約枠も調整。スタッフはもちろん、お客様にもマスク着用をはじめ、手指消毒や検温、体調確認アンケートを行っています」

コロナ禍を乗り越えるには…

 -会議や飲み会などオンライン化が進む中、ヘアカットはオンラインでは代用がきかない技術やサービスだと思います。今後、ヘアサロン業界はどう変わっていくとお考えですか?

 「おっしゃるとおり、弊社のサービスは代用のきかないサービスです。爪を切るような感覚で、ただ単に髪をすっきりしたいという方はハウツー動画などでされる方も少なからず増えるとは思います。ただ、美容師の技や価値を感じていただけるチャンスだとも思っています。今まで以上に、個人のお客様が自分でケアすることと、私たちプロがサロンでするべきことが、明確に分かれていくと思います」

 -社長として、このコロナ禍をどう乗り越えますか?

 「緊急事態宣言を経験して、コロナの恐ろしさを体験し、またその中で自分達に何ができるのかを考えました。1番大事なことはお客様との繋がりを保ち続けることです。それができれば、この状況を乗り越えていけると思います。損得勘定なしに、今まで支えてくださったお客様に対して、美容のプロとしてできることを精一杯、一生懸命やればどんなことがあってもお客様とともに乗り越えていけると思います」

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