人は苦手…でも猫は大好きだった保護猫 遊び相手が欲しかった先住猫に歓迎されて掴んだ幸せな日常

木村 遼 木村 遼

 兵庫県宝塚市のある地域から保護した猫は異常なまでに猫好きのオス猫だった。だが、人が触ろうとするとおびえてしまう臆病な性格。譲渡は難しいと思われたが、寛大な家族と先住猫に恵まれ、幸せな毎日をつかむことができた。

 2019年夏、宝塚市のある地域に住む住人から野良猫保護の相談が入った。「最近、個人的に野良猫のTNRを進めているが、小さい子猫がいるので保護してほしい」と言う。

 TNRとはTrap(捕獲)、Neuter(不妊・去勢手術)、Return(元の場所に戻す)の頭文字をとったもの。手術済みの猫は、その証しとして耳にV字の切り込みを入れており、それがサクラの花びらの形に似ているため「さくらねこ」とも呼ばれる。

 相談者によると、TNR活動をしていたところ、生後2カ月程の子猫が現れたそうだ。できれば、この子を地域猫ではなく、保護してほしいと言いう。そこで、わたしたちのシェルター(保護施設)に空きができたタイミングで、子猫を受け入れることにした。

 ほどなくして準備が整い、相談者が子猫を連れてシェルターにやってきた。わたしは猫用キャリーバッグに近づき、子猫の様子を見ると「ん?なんか大きくない?」と半ば驚き、半ば納得した。

 生後2カ月の猫と聞いていたが、実際は生後半年程の猫だった。実はよくあることだが、素人目には子猫の月齢が分からず、本当の月齢より小さく見えるそうだ。

 猫の名前はルイ。きれいな茶トラのオス猫だ。新しい環境が怖いのか、困り顔でこっちを見てくる表情がなんともかわいらしい。ルイを猫用キャリーバッグからケージに移すと、用意していたハンモックに入って固まっている。猫は生後3カ月程から人を怖がったり、人になかなか慣れないことが多い。

 隔離期間が終わってから他の猫たちと対面させた。すると、ルイは自分から猫に近寄り、お互いの鼻と鼻を合わせてあいさつをしている。猫との相性は悪くなさそうだ。ところが、人に対してはというと、体を触らせてくれるが、怖がって距離を置こうとする。みるみるうちに猫たちとは打ち解けたが、人との距離は一向に縮まらない。

 早く人に慣れてもらうため、マンツーマンで世話をすることにしたが、シェルターには他に保護猫たちがたくさんいるため、それが難しい。そこで、預りボランティア宅に頼み、場所を移して、そちらで世話をすることにした。

 すると効果が表れた。人と接する時間を長くすることで、徐々にではあるがルイはオモチャで人と一緒に遊ぶようになり、少しずつ心を開くようになった。また、この預りボランティア宅には2匹の飼い猫がおり、猫が大好きなルイは彼らとも仲良くなった。

 特に1匹の猫が気に入り、その猫にひっついて離れようとしない。歩いている時も進行を妨げるようにベッタリ寄り添う。そんな姿を見ると、ルイは相当猫が好きなようだ。ちなみに飼い猫はオスとメスが1匹ずつだったが、ルイはオス猫になついており、オス猫との相性が良さそうだ。

 ルイはまだ完全に人慣れしていない状態だったが、猫同士なら仲良くできることもあり、里親募集をすることにした。するとある譲渡会で、先住猫の遊び相手を迎えたいという家族が現れた。

 先住猫はまだ若く、年が近い子猫を希望していたが、家族の留守時間が長く子猫を迎えることは難しい状態だった。というのも子猫は食事の回数が多いため、家を空ける時間が長いと世話ができないからだ。

 そこで、生後半年のルイを勧めることを思いついた。その日の譲渡会にはルイがストレスを抱えてしまうことを心配し、参加させていなかったが、預りボランティアさんがルイの写真や動画を家族に見せ、性格や特徴などを熱心に説明した。すると、その家族はルイを家族に迎えたいと申し出てくれた。

 後日、トライアル(譲渡前のお試し期間)が始まった。環境の変化に最初は怖がっていたルイだが、オスの先住猫まろ君は少し年下の友達が来て嬉しかったのか、隠れているルイの傍へ行き「ニャーニャー」と鳴いて呼んでいる。

 まろ君はすぐにルイを家族として認めてくれたようだ。一方、ルイは人には打ち解けようとせず、距離をとったまま。こんな状態であったが、家族は「ぜひ、ルイ君をうちの子としてお迎えしたい」と言ってくれ、ルイの譲渡が決まった。

 譲渡後1カ月半。ルイはようやく自分から家族に近づくようになり、いまでは飼い主に頭をすりつけるほど人懐っこくなった。もちろん、まろ君とは相変わらず仲良くやっている。

 全国の保護団体には、人慣れしていない保護猫がたくさんいる。もし、先住猫の遊び相手を探しているのであれば、今回のルイのように、最初のうちは人に懐かなくても、猫との相性が良い猫もいるため、譲渡の際に選択の幅を広げることができるのではないだろうか。時間をかければ、きっと懐いてくれるだろう。

 どこの団体も新たな保護をするためには、譲渡が決まる必要があるが、あえて譲渡が決まりにくそうな猫を選んでくれる家族もいる。保護団体にとっては嬉しいことであり、感謝してもしきれない。世の中の保護猫への関心がもっと広まり、たくさんの猫が幸せをつかんでくれることを願わずにはいられない。

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