今の「当たり前」もコロナ禍を伝える「歴史資料」に 吹田市立博物館でチラシやマスク展示

黒川 裕生 黒川 裕生

マスクの安売りを知らせるチラシや入店制限を呼び掛ける精肉店の掲示、リモート会議でおなじみとなった分割画面など、新型コロナウイルスの感染拡大が社会にもたらした変化の痕跡を示す資料を集めた展示「新型コロナと生きる社会〜私たちは何を託されたのか〜」が、大阪府吹田市の同市立博物館で開かれている。コロナ禍の影響がまさに現在進行形で広がる中での試みだが、同館学芸員の五月女賢司さんは「状況を一度俯瞰してみると、世の中の見え方が変わるかもしれない。この数カ月を振り返り、これからの日本のあり方や、自分の生き方を考えるきっかけにしていただければ」と話す。

同館では、五月女さんが中心となって3月中旬から関連資料の収集を開始。7月中旬までに、同館の利用者や市民らからマスクなどの「モノ資料」とチラシなどの「紙資料」が計約750点、コロナ禍の生活を記録した写真データが約400点寄せられたという。

7月18日に始まった展示では、その中から厳選した約130点を紹介。「地域の皆様へ!皆で頑張ろう!」という手書きのテイクアウト限定メニューは、ある寿司店からの提供だ。未開封の“アベノマスク”はもちろん、小学校のリモート授業を受ける男児の姿や、マスクを買い求める人々の長蛇の列を写した写真なども並んでいる。

やや毛色は違うが、コロナ禍における日本の「ブラック・ライヴズ・マター(BLM)運動」を取り上げたコーナーも。SNSの普及やコロナ禍による生活の変化などがBLMの急速な拡散にどう影響したのか、人種差別という文脈にとどまらない視点を示唆している。

タイムリーな企画だけに、今も当たり前に見られる資料がある一方、すでに少し懐かしく感じてしまう資料もあるのが面白い。五月女さんは「チラシのように読んだらすぐ捨てられるものも、例えば100年後には、新型コロナウイルス感染拡大の実態を知る貴重な歴史資料になります」と強調する。

五月女さんによると、北海道の浦幌町立博物館で5月に「『コロナな世相』を語り継ごう」と題した展示コーナーが設けられた以外、全国の博物館で同様の展示が行われた例はないとみられる。吹田市立博物館では今後も全国から、こうした資料のほか、コロナ禍に関連する証言の収集を続けていくという。

展示は8月23日まで。観覧料は一般200円、小中学生50円など。資料や証言を提供したい人は、同館(tel:06-6338-5500)へ。

◾️吹田市立博物館 http://www2.suita.ed.jp/hak/index.html

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