栞(しおり)やスマートフォンケースに金メッキで緻密に描かれた、路線図やアニメキャラクター。目を凝らせば凝らすほど、0.1ミリ単位の細い線によるデザインに目を奪われる。これらの雑貨は、電子機器に内蔵されている「プリント基板」を製造・販売している株式会社電子技販(大阪府吹田市)によって作られている。基板製造の傍ら雑貨ブランド「moeco」を立ち上げ、「基板の美しさ」を強みにした商品を販売し、国内外で人気を博してきた。町のものづくりメーカーが、なぜ雑貨のヒット商品を生み出しているのだろうか。
「moeco」の生みの親は、同社2代目社長の北山寛樹さん。「工場の上に自宅があって、基板を遊び道具にしたり、仕事のお手伝いをしたりしながら育ちました」と基板への愛を語る。北山さんは、生粋の「基板オタク」だ。「基板というのは機能性が重視されるものなのに、その見た目は美しく、かっこいい。いつか雑貨を作りたいと思っていました」
やがて後を継ぎ、ある展示会に参加することになったときのこと。NGになった基板をアクセサリーにしたところ、好評だったという。「代官山蔦屋書店のバイヤーの目に留まり、『男性向けの雑貨を作ってくれないか』とオファーをいただいたんです。東京オリンピックの開催が決定した年だったので、『東京にちなんだものを作ろう』と決めました」
最初に完成したのが、東京の路線図がデザインされた名刺入れ。「これが鉄道ファンにヒットしたので、次はiPhoneケースを作ったんです。LEDを内蔵してみたら、さらにヒットして。それからはガンダムやスターウォーズなどのアニメ作品とコラボして、どんどん人気が出ました」栞は今年の6月に発売。新型コロナウイルスで人々の「おうちじかん」が増えたことを受け、「これを機に低価格の商品も」とリリースした。
プリント基板は、電子的な仕組みをつかさどる電子機器に欠かせないパーツだ。それを製造する「プロの技術」を有するメーカーが、雑貨という違う分野でモノを売る。全くの別業界であるため、「最初は値段のつけ方も分からなかったし、社内の職人から反対されたこともあった」と北山さん。
しかし売上は順調に伸び、自社のアピールもしやすくなった。ユーザーは日本にはとどまらず、海外からの注文も多い。
「プリント基板を納品するときは、100%のクオリティで期日通りであることが当たり前なので、わざわざ褒められることはありません。しかし雑貨を売り始めると、『プレゼントに喜んでもらえました』などと喜びの声が届くようになった。作りがいがありますね」(北山さん)
入念に設計されたデザインと、確かな技術。その上質さに、思わず周囲に自慢したくなる。自分へのご褒美や、大切な人へのプレゼントにいかが。
■PCB ART moeco https://www.moeco.jp.net