デジタル時代に若きフィルム映写技師が相次ぎデビュー コロナ禍が生んだ偶然と必然

黒川 裕生 黒川 裕生

酒見さんが「ニュー・シネマ・パラダイス」で華々しくデビューした日のちょうど1週間前。神戸の2番館「Cinema KOBE(シネマ神戸)」では5月23日、スタッフの岸本倫子さん(33)が一足早く映写技師として初仕事に臨んだ。記念すべき作品は「真夜中の不倫妻」(2013年)。そう、成人映画である。シネマ神戸には2スクリーンの劇場で、ひとつは主にデジタルでロードショーを終えた洋画の2本立て、もうひとつは今もフィルムで成人映画を上映しているのだ。

学生時代は別のミニシアターで働いていたという岸本さん。別の仕事にも就いた時期もあったが、やはり映画館で働きたいという思いが強く、6年ほど前、支配人の木谷明博さんに直談判してシネマ神戸のスタッフになった。

酒見さん同様、休館中に映写機の使い方を学んだ岸本さんのデビュー戦。初回の観客はなんと1人だけだったそうが、それでも「緊張で手が震えた」と笑う。本番では、映写室でカタカタと音を立てて回る映写機に、あらためて感動。「なんで今までやってなかったんやろうと思うくらい楽しいし、自分の手で動かせることに喜びを感じる。成人映画と聞くと驚かれるかもしれないけど、胸を張って自慢したいです」と話す。

「憧れの仕事」できる喜び

大阪のシネ・ヌーヴォでは6月15日、寺本香英さん(24)が西城秀樹主演「愛と誠」(1974年)のフィルム上映でデビュー。もともと初仕事は5月の予定だったが、コロナ禍で1カ月ほど延びた。事前に新聞などで取り上げられたこともあり、当日は手紙やお守りを手渡して激励してくれる人もいたという。

寺本さんは1970〜80年代のカルチャーが大好きで、学生時代からフィルムでしか見られない古い映画を鑑賞するために映画館に足繁く通っていたという根っからのシネフィル。「いつか自分でも上映してみたいと憧れていたので、最高に幸せ。映写機が回るのを見ていると、胸がキュンとします」

なお関西にはこの3館の他にも新世界東映(大阪)や神戸映画資料館(神戸)など、今もフィルム上映を続けている映画館がある。

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