Withコロナ時代、僧侶×臨床心理士の吉村昇洋氏に聞く不安や恐怖に翻弄されない生き方

渡辺 陽 渡辺 陽
吉村昇洋氏
吉村昇洋氏

正しく怖がる

――情報の取捨選択をすることも重要ですね。

吉村 仮に、中国人の家族があなたの近くを歩いていたとします。以前だったら、「最近、中国人が増えたな」と思うだけでしょう。しかし、いまでは、感染者を見るような目で見てしまう。実際は、旅行者ではなく、コロナ以前から日本在住で、感染の条件が日本人と変わらない方たちあったとしても、つい頭の中で感染の可能性が高いと見積もってしまい、「中国人」というだけで警戒してしまうのです。これは、まぎれもなく差別意識の表出で、今年3月に中東のパレスチナ自治区在住の日本人女性が「コロナ、コロナ」とからかわれたうえに暴行を受けた事件と根が同じです。

空想が頭の中に入っている情報と結びついて、より強大なものになっていきます。もしかしたらこうかもしれない、ああかもしれないと思いを巡らせることで、より一層不安になるのです。現実のデータや情報そっちのけで、どんどん空想に左右されてしまう。今この瞬間の現実ではなく、頭の中の空想の世界にどっぷり浸かり、自分自身で不安を作り出しては、より強大なものにしているのです。冷静でいるためには、そういった自己の働きにちゃんと気付いて、正しい怖がり方をしないといけません。

自分の正義感なのか、ただストレスをぶつけたいだけなのか、感情がごちゃ混ぜになっている。そういう人は、何か意見を言ってすっきりしたい、溜飲を下げたいという思いに自分の行動が制御されていないか、一呼吸置いて静かに自分の心に問うてみてください。

自分で増大させた攻撃性にまかせて、マスクをしていない人や自粛していない人に文句を言っていたら、しっぺ返しを食らうかもしれません。ケンカになると飛沫感染するリスクもあります。自分の身を守るとはどういうことなのか、自分の感情をしっかりみつめることが大事です。禅の「自己を見つめる」という話の流れの中でもそうですけれども、自分の欲望と向き合います。余計なことを言う必要はありません。

自分の心を鎮めて落ち着けるには、わざわざ自分自身で荒ぶる心を呼び起こす必要はないのです。

私たちが戦わねばならない本当の敵はウイルスであることは言うまでもありませんが、自分の中にある不安や恐怖心でもあります。それは他者を糾弾したからといって消えるものではありません。あくまでも新型コロナウイルスを正しく理解することによって、湧き上がってくる不安を克服すること。それがWithコロナを生き抜くということなのです。

◆吉村昇洋(よしむら・しょうよう) 1977年、広島生まれ。曹洞宗八屋山普門寺副住職/公認心理師/臨床心理士/相愛大学非常勤講師 曹洞宗大本山永平寺での修行経験をベースに、禅仏教や臨床心理学、精進料理、仏教マンガに関する講師、執筆活動を積極的に行い、NHK総合『ごごナマ』やNHK Eテレ『まる得マガジン』『きょうの料理』でも講師を務める。近著に『精進料理考』(春秋社)ほか、『禅に学ぶくらしの整え方』(オレンジページ)、『心が疲れたらお粥を食べなさい』『気にしない生き方』(ともに幻冬舎)など著書多数。

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