廃れつつある看板の手書き 毎朝アップされる「#今日の一文字」動画が話題に…職人さんの思いとは?

太田 浩子 太田 浩子

 白い塗料をたっぷりと含ませた筆を、迷いなく走らせて均整のとれた「休日規制解除」の文字を完成させる動画が話題になりました。赤い板に下書きはなく、一文字ごとに四角い外枠がうっすらと書かれているのみ。にもかかわらず、あまりにもスラスラと筆が進むので「見ててすごく気持ち良い...。うっとり」と感動する人が続出し、2.3万リツイートと10.8万いいねがつき、再生回数は179.8万回になっています。

 リプ欄には、
「赤地に白い文字。何度見てもため息出る程 素敵です」
「ハネを書く前のちょんと出すアタリに凄くグッときました」
「バランスも完璧ですね、まさに職人技」
「フリーハンドで筆なのに均一な線が見事ですね。見ていて気持ちがいい。」
「下書きも無しに凄いです(*’ω’ノノ゙☆パチパチ♪」
とスゴ技に驚く声が集まりました。

 この文字を書いたのは、大阪府の泉州地域の看板屋・サインズシュウ(@signsshu)さん。手書き文字の技術が、にぶってしまわないように毎朝書く文字動画「#今日の一文字」や看板制作の作業動画が、ツイッターで何度も話題になっています。手書き文字の看板について精力的に発信するサインズシュウさんに聞きました。

 ──下書きなしでこんなに整った字が書けるんですね、驚きました。どのくらいで納得できる文字が書けるようになったのですか?

 それはよくわかりません。30年前から親方のところで、働きながら教えていただきました。若い頃もそれなりに自信をもって書いていたつもりですが、今見るとへたっぴです。つまり、キリのない世界なのでしょう。

 ──どんな字体でも書けるのですか?

 ある程度は書けます。

 ──筆は字体ごとにあるのでしょうか。

 大きく分けて、平筆・和筆・ゴシック筆です。それぞれに太さのバリエーションがあります。

 ──手書き文字の看板の良さとは?

 抜群の耐久性と、ヴィンテージジーンズのように経年劣化を楽しめることです。

 現在の看板資材(切文字ステッカーや印刷シート)などは屋外では5年までの耐久性で、よく持っても10年です。それを過ぎるとボロボロになり無残な姿になってしまいます。
 書き文字の場合は、劣化しだすのは早いのですが、その後は少しずつしか進行しないので、30年経っても残っていて、味わいのあるヴィンテージ感を楽しむことができます。

 シートや印刷で仕上げた看板では、店が15年経つ頃には必ずリニューアルする必要があり、店構えがヴィンテージ化することは不可能です。俗に言う「良い感じの雰囲気」が出ません。

 ──古くなっても味があると感じられるか、汚くなってしまって新しくしなくてはいけない状態になるかの違いがあるんですね。お弟子さんはいるのですか?

 いません。私は昭和41年生まれの54歳ですが、年配の方で今もやっておられる方はどこかに居てると思いますが、私の同年輩以下では、和泉市の板倉氏以外にはいないと思います。

 ──引き継ぐ人がいないんですね…。手書き文字のお仕事はどのくらいの頻度で?

 放っておけば、年間4〜5件しかないかもしれません。

 現在普及している切文字ステッカーが貼れない(めくれやすい)箇所(凹凸やザラザラ面)に需要があります。ほかに私が手書きをすすめる場所は、鉄扉や壁面・シャッター面など、10〜15年に一度は塗り替えないといけない箇所です。切文字を貼ってしまうと、塗装の際にきれいにめくらなければいけないので、塗り替えの時に大変になってしまうからです。

 ──残念なことですね。。手書き文字の動画を投稿するようになったのはなぜ?

 看板界から『手書き』というものが無くなっています。また、看板を設計する段階でも『手書き』でやるという発想が、既に無くなってしまっています。つまり、日本ではすでに『手書き』での看板というのは廃ってしまってるのです。
 そこで生き残りの私が拡散されることで、いろんなシーンで『手書き』の需要を再び見直すキッカケになればと考えています。

 ■shu kanba(YouTube) https://www.youtube.com/channel/UCVNG0ksieUEuc0_-Ev-DKVA/featured

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