今年の春は新型コロナウィルスの影響でろくに出かけることもできず、花見すらできなかった人が多かった。やっと落ち着いたと思ったら、間もなくジメジメした梅雨の季節がやってくる。気分が滅入りがちなときに、少しでも癒しになる花をご紹介したい。
それは、花径2cmほどの白い花を咲かせる「サンカヨウ」だ。雨に濡れると、白い花びらが半透明になるという。その姿はガラス細工か氷細工のように可憐で、見た目にも涼しげな印象を与えてくれる。
雨に濡れたら、なぜ半透明になるのだろう? 長野県にある「栂池(つがいけ)自然園」栂池ビジターセンター主任の猪股崇志さんに聞いた。栂池自然園では、自然のままのサンカヨウが見られるという。
「なぜ半透明になるのか、じつはよく分かっていないのです。研究をしている大学の先生がいらっしゃるみたいですけど、解明しきれていないのが現状です」
以前、あるテレビ局が栂池自然園を訪れ、番組スタッフが霧吹きで一晩中水を吹きかけてみたけれど、白いまま変化しなかった。ところが別のある日、夜中のほんの一時、霧のような細かい雨が降ったあと半透明に変わっていたことがあるそうだ。
猪股さん曰く「自然界に“白”という色は存在しないんです。光が乱反射することによって、目の錯覚で白に見えるわけです。そういうことから考えると、水を吸収すると乱反射が抑えられて、半透明に見えるんじゃないかな……と、いわれていますね」
すりガラスを水で濡らしたとき半透明になる、あのイメージに近いという。
こんな不思議な性質をもつサンカヨウとは、どんな植物なのか。
メギ科サンカヨウ属の多年草で、自然にあるものは本州の中部以北からサハリンにかけて、高地や灌木の間などの湿った場所を好む。ほかの地域では、花屋さんで手に入るようだ。
漢字では「山荷葉」と書く。「荷葉」とは「蓮の葉」のことで「蓮のような葉をもつ、山に咲く花」という意味合いがあるという。
草丈は50―70cmで、花は6枚の花びらをもち、いくつもの花が固まって咲く。真っ白い花びらと、鮮やかに黄色い雄蕊とのコントラストが美しい。そして葉っぱは、小さな花に似合わないほど大きい。
花が終わると1.5―2cmほどの、ブルーベリーをやや細長くしたような形の実をつける。見た目の印象はおいしそうで、実際に食べられるのだが「渋くて、おいしいとは言い難いです」(猪股さん)。
花を咲かせる時季は5―7月というから、まさにこれからが見ごろ。栂池自然園のほかにも見られる場所と時季をざっと挙げると…。
▽六甲高山植物園(兵庫県)/4月中旬
▽尾瀬(群馬県・新潟県・福島県)/6月下旬
▽白馬五竜高山植物園(長野県)/7月中旬
▽大雪山国立公園(北海道)/7月中旬
六甲高山植物園が4月中旬で、残念ながら時季が過ぎてしまっている。花が咲いている日数は長くても7日間くらいなので、これから見られる場所でも、出かける前に開花状況をよく確認したほうがいい。
ちなみに、サンカヨウの花言葉は「親愛の情」「幸せ」「清楚な人」だ。