獣医師や動物病院が信頼できない!…そんな悩みの相談に乗ってくれる獣医療ソーシャルワーカーとは

渡辺 陽 渡辺 陽

可愛いペットも病気をすると悩み深い。検査や投薬をしてもなかなか治らない、手術をするのかしないのか、薬を思うように飲んでくれない、納得できる獣医師に出会えない、治療費が高額など、悩みを抱えている人も少なくないでしょう。獣医師に相談しにくい問題に耳を傾けてくれるのが獣医療ソーシャルワーカーです。大阪府立大学獣医臨床センター、泉南動物病院で活躍する今井泉さんに話を伺いました。

獣医と飼い主のコミュニケーションを助けてくれる獣医療ソーシャルワーカー

日本獣医師会の調査(※1)では、飼い主が動物病院を選ぶ時に重視することは、「獣医師の説明内容の分かりやすさ」、「自宅からの近さ」が上位を占めています。獣医師の説明には満足している人が多いという結果も出ています。

ただ、診察室で獣医師が言ったことを全部理解できているかというと、そうでないこともあるでしょうし、飼い主さんから獣医に伝えたかったことを伝えられなかったということもあるでしょう。

獣医療ソーシャルワーカーの今井泉さん(以下、今井さん)は、獣医師と飼い主の間に入って、うまくコミュニケーションできるようアドバイスをしてくれます。

--一般の病院では、どんな相談に乗ってくれるのですか。

今井 「獣医が説明したことの一部分しか頭に残っていないということもよくあります。待合室で他の子ペットの飼い主さんと話しをしていると、『どうしてうちの子は良くならないんだろう』と不安になる飼い主がいます。私は獣医でもあるので、飼い主さんが獣医の話の『何を聞けていないのか』が分かるので、『この点について先生に聞いてみたら』と提案できるんです。飼い主のライフスタイルに合わせた治療や薬の飲ませ方の相談に乗ることもあります。たとえば、フルタイムで働いている人の場合、朝昼晩、毎日3回薬を飲ませることは難しい。獣医は、朝昼晩1日3回薬を飲ませる治療法を提案することがありますが、どうしたら薬を飲ませることができるのか一緒に考えます」

 深刻な病気の相談やさまざまな治療法があるケースも

――ペットが中高年になると、慢性疾患や命に関わる病気になるリスクが高まります。腫瘍ともなると飼い主の悩みも深刻なのではないでしょうか。

今井 「大阪府立大学獣医臨床センターあんしん獣医療相談室で、腫瘍ができた犬の抗がん剤治療を他院で受けている飼い主さんの相談に乗ったことがあります。抗がん剤の副作用でどんどん食欲が落ちてきたのが気になり、飼い主さんは担当の獣医に相談したそうです。獣医は、抗がん剤をやめると食欲は戻ると言ったそうです。確かに抗がん剤を止めると食欲が戻るのですが、ホッとしたのも束の間、次のクールの抗がん剤治療が始まる。『このままだとどんどん体重が落ちて、抗がん剤治療に耐えられなくなるのではないか』と飼い主さんは心配したんです。獣医は、あと2クール頑張ってくれたら2週間間隔を開けられると説明をしたようですが、飼い主さんは食欲が健康のバロメーターなので不安になるとおっしゃっていました」

――安楽死も含め、いろんな治療法があって迷うケースもあるのでは。

今井 「飼い主が何を望んでいるのか。それが一番大事なことなので、思いを伺うために話をしてもらいます。言葉にされると、どんどん気持ちの整理ができるのです。獣医は、できうる治療を動物の性格などを踏まえて考え、いろんな選択肢を提案します。その選択肢について飼い主さんが何を望んで、何をしてあげたいと思っているのか、ペットとどういう生き方をしていきたいのかといったことを踏まえて話をします。対話のなかで飼い主さんの意思決定や治療法の選択のお手伝いをして、合意へと進むのです」

 医療過誤や高額な医療費にはどう対処したらいい?

――医療過誤裁判になるようなケースの相談にも乗っていただけるのでしょうか。

今井 「裁判になる一歩手前で双方が納得できるよう、医療メディエーター(仲介者)として間に入ることもあります。当事者同士同じテーブルについて訴える、訴えないと険悪な状態になる前に、双方のお話を一緒に聴かせていただく姿勢で間に入ります」

――日本獣医師会の調査では、診療費の安さも動物病院を選ぶ時に重視する項目の上位にあがっていて、注目されていることが伺えますが。

今井 「治療にかけられる費用は、飼い主によって幅があると思うのですが、動物病院は自由診療なので上限が決められていません。たいていの病院は、入院や手術費用の概算を出すと思います。自分としてはここまでしか出せないと最初に話したほうがいいでしょう」

※1 日本獣医師会 家庭飼育動物(犬・猫)の飼育者意識調査(平成27年度)

今井泉 獣医師、小動物臨床獣医師(一次診療、夜間救急診療)として勤務、動物愛護社会化検定 専門級取得、豪州メルボルン短期アニマル理学療法セミナー終了、医療メディエーターB(Basic)取得、上智大学グリーフケア研究所グリーフケア養成講座専門コース修了

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