新型コロナウィルス感染症を受けて、全国に緊急事態宣言が発令され、外出自粛が要請されている。懸念されるのが、高齢者や障がい者の健康への影響だ。高齢者のひきこもりを予防しようと、動き出したパーソナルモビリティメーカーがある「WHILL(ウィル)」だ。グッドデザイン賞を受賞した電動車いす・WHILL Model Cの1か月間の無料貸し出しを始めている。
対象となるのは、下記のような方。
・普段は公共交通の利用者で、新型コロナウィルの影響で公共交通に乗れなくなってしまい、買い物や健康維持ができなくなってしまった65歳以上の高齢者
・ヘルパーや高齢者がサポートに来れず、買い物や健康維持のために外出ができなくなった65歳以上の高齢者
対象地域は、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、京都、奈良、和歌山。申し込み期間は、2020年5月4日から2020年5月31日。家族からの申し込みでも受け付けてくれる。
動かないと、心身や脳の機能が低下
日本の65歳以上の高齢者のうち約1000万人は加齢などにより、500メートルを超える距離(約7分弱)を歩くことが難しいと言いわれている。WHILLによると、普段は公共交通を用いて買い物に出かけたり、ヘルパーや家族の助けを借りて、外出をしている人も、新型コロナウィルスの感染を避けるため、公共交通を使うことや、ヘルパーや家族と会うことも避けてしまい、最低限度の買い物や健康維持のための外出ができない懸念があるのだという。
高齢者の日常生活をサポートしてきた女性は「せっかく外出できるようになって来ていたのに、新型コロナウィルスの影響で支援ができない間に体力が落ち、外出ができなくなってしまった。これまでの努力は何だったのか」と窮状を訴える。
日本老年医学会によると、もともと高齢者は家に閉じこもり、外出が少ない。動かないことにより、フレイル(虚弱)がさらに進み、心身や脳の機能が低下すると言われている。
電動車いすなのに、自転車みたい?
WHILLは電動車いすメーカーであるが、”重症者が乗る”ことが想定された電動車いすと大きく異なる。「すべての人の移動を楽しくスマートにする」を掲げて、気軽に外出することをサポートする移動手段として、高い評価を受けている。2015年と2017年にグッドデザイン賞を受賞している。デザインやコンセプトに共感した人も多く、高齢者のみならず、若年層にも支持されている。
WHILLのユーザーアンケートによると、約75%が歩くことができる人で、全く歩けないユーザーは約25%程度だ。そして、約60%がWHILLを使うことにより、外出したいと思うようになった、約70%が行ける場所が増えたと回答している。
WHILLに乗り始めた理由について、「家族からクルマの運転をやめるように言われ、免許返納の時期が近くなったのでWHILL購入を検討した」。WHILLに乗り始めてから「WHILLがマイカーの代わりになった」「近所の買い物など、自家用車では行きづらく、杖で歩くには距離が長いところに利用したい」と答えている。
最近では自動車や自転車販売店での取り扱いが増えている。ネッツトヨタ神戸では全19店舗で試乗機を展示するなど販売に積極的なほか、メルセデス・ベンツなどの輸入車正規販売店のヤナセ、中古車の買取販売のガリバーでお馴染みのIDOM(イドム)、大阪マツダ、福井トヨタなどで続々と取り扱われる。自転車の最大手あさひ(約500店舗)、メガネの三城にも販路を広げる。また介護保険制度を利用して月額約2700円でレンタル利用することも可能だ。
WHILLの辻阪小百合氏は「ユーザーは歩けないわけではなく、長距離が歩けなかったり、免許返納後の移動手段として利用されている方が多いです。絶対に倒れない自転車のような位置づけで利用していただければ」と話す。
問い合わせ:0120-062-416 (平日9:00―18:00)
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◆楠田悦子(くすだ・えつこ)心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化と環境について、分野横断的、多層的に国内外を比較しながら考える。自動車新聞社のモビリティビジネス専門誌「LIGARE」初代編集長を経て、2013年に独立。自治体や国の有識者会議委員などもつとめる。ホームページ:https://www.leben-kurashi.com/philosophy-1