劣悪環境から保護されたエイズキャリアの子猫 「手がかかるからこそ私が…」新しい家族との出会い

鶴野 浩己 鶴野 浩己

香川県観音寺市に住む本田さんは、この春にハチワレの子猫を迎えた。エイズキャリアで、トイレがなかなか覚えられない、ちょっと手のかかるメスのオッドアイ。「ちゃちゃ」と名付けられたその子猫は、本田さんの膝の上で毎日喉を鳴らしている。

 エイズキャリアでトイレを覚えられない

ちゃちゃは、多頭外飼育が崩壊した家で保護された。高齢で猫好きの飼い主が大病を患い、猫の面倒を見られなくなったのだ。

保護したのは、飼い主の知人で猫の保護活動をしていた小田さん。足の踏み場がないほど糞尿がこびりついた部屋から、今年1月、12匹の猫が救い出された。

小田さんは早速、猫たちの避妊・去勢手術、血液検査、ワクチン、ノミダニ駆除を慣行。里親募集サイトや譲渡会で猫たちの里親を探した。数匹はそこで里親が見つかり、無事、新たな飼い主のもとへ。6匹残った猫たちは、小田さんが世話を続けながら、新しい家族との出会いを待った。

しかし、新型コロナの影響で延期・中止となる譲渡会が続出。粗悪なトイレ環境で育った猫たちの中には猫用トイレで用を足せない子が数匹おり、小田さんに世話の負担がのしかかった。そんなときに出会ったのが、2人の預かりボランティア。保護した中には白、キジトラ、ハチワレの3匹の兄弟子猫がいたが、一人が白猫を、もう一人がキジトラとハチワレの子猫を預かってくれた。

この、2匹の子猫を預かったのが、新米預かりボランティアだった本田さんだ。いずれは新しい家族のもとに行くとわかっていたが、せめて名前で呼んであげたいと、やんちゃなハチワレを「ちゃちゃ」、キジトラを「しま」と名付けた。

しまは人見知りだがお利口で、トイレの粗相もない。ところがちゃちゃは、猫用トイレで用を足せなかった。トイレにタオルとペットシーツを敷くとたまにそこで用を足すが、猫砂には知らんぷり。ちょっと目を離すとすぐに、クッションや布団で粗相をした。また、エイズキャリア陽性で免疫力が低いのか、抗生剤を飲ませてもくしゃみと鼻水が止まらない。そんなちゃちゃを本田さんは、「毎日、クッションや布団を丸洗いして、床も水拭き。おかげで家が、以前よりもきれいになりましたよ」と笑って受け入れた。

「トイレが覚えられないのも個性の一つ」と、粗相したちゃちゃを叱らない。そんな本田さんに、ちゃちゃはよく懐いた。

「よく遊んで思いっきり甘えてくるちゃちゃは、本当にかわいかった。だけど、何かと手がかかる分、里親探しはちゃちゃのほうが難しいかな、と思っていました」。

そして、預かり後初の譲渡会。夕方に会場に行くと、案の定、ちゃちゃだけが残っていた。3兄弟のうち、白猫としまは、2匹一緒に新たな家族のもとに行くことが決まったのだ。

「ケージの中のちゃちゃが、すごくしょんぼりして見えました。『ちゃちゃ』って声をかけると、じっとわたしの顔を見てきて…」。

本田さんはたまらず、「私が引き取ります」と小田さんに申し出た。

手がかかる子ほどかわいい

先住猫にエイズワクチンを打ち、ちゃちゃは本田家の新しい家族になった。兄弟たちとは離れ離れになったが、「夏」という新しいお姉ちゃんもできた。

「先住猫の夏はちゃちゃと同じハチワレで、年も2歳くらいしか変わらない。柄も年も似ている女の子同士、本当の姉妹みたいに毎日一緒に遊んでいます」。

好きなおもちゃも、お気に入りの場所も同じというちゃちゃと夏。鈴が入った小さなボールを毎日一緒に追いかけ、冷蔵庫の上に2つ並んだ猫ベッドで隣り合わせてお昼寝する。

「家族になってからの方がより甘えん坊になりました。寝るときは必ず寄り添って寝ますし、とにかくよく喉を鳴らすようになりましたね」。

苦手だったトイレも、徐々に覚えられるように。ウンチはまだ失敗することがあるが、オシッコは9割方トイレでできるようになった。とはいえ、くしゃみも鼻水も相変わらずで、手がかかるのは変わらない。そんなちゃちゃを本田さんは「手のかかる子ほどかわいいと言いますが、本当ですね。鼻水を顔に飛ばされながらも、やっぱり毎日一緒に寝たいですから(笑)」と優しい目で見つめる。

やっと見つけた、清潔であたたかな居場所。「小田さんのおかげで助かった大切な命。幸せなゴロゴロ音をできるだけたくさん鳴らせるように、いっぱいのぬくもりを与えてあげたいです」。

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