庭に現れた猫は、見る影もないほどやせこけていたが、猫を多頭飼いしていた山本さんは、簡単には家の中に入れることはできなかった。無責任にごはんを与えることもできない。考えた末、山本さんは猫をTNRした。しかし、唯一ごはんをもらえる場所だった庭の縄張り争いが始まってしまった。
庭に現れたガリガリにやせた猫
2019年7月、愛知県に住む山本さんの家の庭に1匹の猫がやってくるようになった。2歳くらいに見えたが、ガリガリにやせ細っていたという。山本さんは猫好きだが、既に7匹の猫を飼っていたので、すぐに家に入れるわけにはいかなかった。ごはんを与えるにも覚悟がいる。山本さんは、毎日水だけ与えていた。
猫は、毎日庭に来るようになった。たが、警戒心が強くて、窓を開けると庭の隅に逃げてしまった。窓を閉めると窓の前まで来る。
「食べ物をくれる家がないのかなと思って、家の中から様子を見ていました。いずれにせよ、可愛そうという一時の感情に任せて家の中に入れるわけにはいかないので、何が一番いい方法なのか考えました」
8月初旬、山本さんは、猫をTNRしようと思った。捕獲機の使い方も知らず、捕獲してもどうしたらいいのかも分からないので、決断するまで時間がかかった。
「知識はあっても、実行するのは難しかったんです。10月になって気温が下がって聞いたので、外に小屋を作りました。11月に捕獲機を設置したのですが、意外とすんなり入ってくれました」
縄張り争い
11月17日、山本さんは猫をリリースして、ごはんだけあげていた。名前はシャ太郎にした。いつしか山本さんの庭がシャ太郎の縄張りになったが、2020年2月に見知らぬ雄猫の群れが庭に現れるようになった。ケンカが始まり、シャ太郎は一度縄張りを奪われた。
「うちの庭でしかごはんをもらえない子だし、2月に入って寒くなってきたので、家に入れて里親さんを探そうと思いました」
家の窓を開けっぱなしにして家の中に入れようとしたが、窓から身体半分入ったところで逃げていく。
「もう一度怖い思いをさせてしまうと思ったのですが、もう一度捕獲機を設置しました。私の心配をよそに、シャ太郎は、ごはんも入っていないのに捕獲機の中に入っていました」
エイズキャリアだった
2月16日、里親を募集する前にエイズキャリアでないかどうか検査をしたら、シャ太郎くんは猫エイズにかかっていた。
「主人が、これ以上猫を増やすと面倒を見切れないのではないかと心配したので、里親を探すという約束で家に入れたんです。でも、エイズキャリアだと分かって、うちの子にしたらいいよと言ってくれたんです。環境が変わってストレスがたまるくらいなら、ここで過ごしたらいいんじゃないかと」
山本家の子になったシャ太郎くん。いまは家猫修行に励んでいる。夜鳴きが激しいので、山本さん夫妻も睡眠不足との戦いに。先住猫は、ほとんどが女の子なので、家の中は彼女たちの縄張りだ。シャ太郎くんは、ケージの扉を開け放しておいても、なかなか外には出れないでいるという。