村上春樹さんの作品によく出てくるフレーズ「やれやれ」について、何回出てくるか数えてみた…という投稿がTwitterで話題です。『風の歌を聴け』から『ダンス・ダンス・ダンス』まで、初期の作品について調べたところ、なにやら不思議な傾向まであったそうですよ。しかし、そんなことを本当にする人がいるなんて…。まさに「やれやれ」ですよね!
投稿したのは分子生物学の研究される一方、英米の幻想文学に詳しく、翻訳家としても活動している中野善夫(@tolle_et_lege)さんです。Kindleで村上春樹さんの作品が読めるようになることを知ってまとめて購入。それをきっかけに言葉の出現回数を調べてみたのだそうです。さて、気になる「やれやれ」の出現回数は…。
・『風の歌を聴け』 0回
・『1973年のピンボール』 1回
・『カンガルー日和』 8回
・『羊をめぐる冒険』 11回
・『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』 21回
・『ダンス・ダンス・ダンス』 30回
これらは1979年から1988年のあいだにかけて出版・発表された主な長編・短編小説で、年代順に並んでいるのですが…。なんとなく、年々「やれやれ」が増えているように思えませんか?
ちなみにこの回数は、Kindleについている機能「文字列検索」を使って調べたとのこと。手作業でコツコツ数えていたわけではなかったことに、思わず安堵しますが、それでも「こんなカウントを真剣にする人に『やれやれ』」といったような声がネットで続出。
「やれやれ」が増殖していく様子に「だんだん意識して使い始めたということでしょうか」「村上春樹がジャズ喫茶を閉めて専業作家になってから急に増えているように見える」と推理する人も…。こういった分析的な視点で作品をとらえること自体に興味を持ち、「横軸に作品文字数、縦軸にやれやれ数で散布図描きたい」という投稿もありました。
なお、上記のリストには初期の超有名作「ノルウェイの森」が欠けているのですが、「ぜひ調べてほしい」というリプライも。そこで中野さんは「好きじゃないのに」数えるために『ノルウェイの森』を購入する羽目に…。調べてみたところ出現回数は12回だったそうです。ただ、ノルウェイの森はダンス・ダンス・ダンスの前に出版されているので、表にまとめると、ここだけ減ってしまいますね…。
中野さんにお話をお聞きしました。
―なぜ「やれやれ」の出現回数を数えようと思われたのでしょうか。
「村上春樹といえば『やれやれ』というくらい有名だから。面白いでしょう」
―確かに面白いです。Kindleの機能を使って出現回数を調べるなんて、よく思いつかれましたね。
「言葉を数えるのは好きなので、以前は紙の本をスキャンしてpdf化してから文字認識(OCR)でテキスト化したものを使って数えたこともありました。ただ、誤認識などもあって正確に数えられず、かといってテキスト解析を仕事にしているわけでもないので、読みながら修正していく暇と元気があるわけでもなく、いつか電子書籍になったら数えたいと思っていました」
―なるほど…こういう本の楽しみ方も電子書籍ならではかもしれませんね。「やれやれ」に続いて「ビール」についてカウントされたのですよね。
「ビールをよく飲むというのも有名だと思うので。スパゲティーでも「そうかも知れない」でも何でもいいのですが、(研究ではないので)面白い語を何となく選んでみただけですね。あと、ビールはOCRでは誤認識が多い語なので、電子書籍で数えたいという気持ちもありました」
―ああ、「ビ」と「ピ」ってよく似ていて、OCR泣かせな感じがしますね。そういえば、Kindleでは村上春樹さんの初期の作品ばかり購入されたのですね。
「初期の作品が好きだからですね。もう少し後の作品で欲しいものもありますが、まだKindle本になっていませんでした」
―「ノルウェイの森」もその後購入され、初期の主な作品がそろいましたが、「やれやれ」の数の変動を見てどのようなことを思われますか。
「変動をちゃんと見るなら、全体の文字数で割るなどして正規化すべきだと思います。何となく見た感じでは、『羊をめぐる冒険』から増えていって、『ダンス・ダンス・ダンス』を過ぎてからは減っていくように思います。それは前からみんな知っていることだとは思います。だから、意外性はあまりないのですが、電子化を機会に正確に数えてみたというのが何となく面白いのだと思います」
―上記の6作品で、中野さんが一番好きな作品はどちらですか。
「圧倒的に『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』ですね。最初に読んだのもこれだったような気がします。あるいは『羊をめぐる冒険』か。『ノルウェイの森』は好きではなくて(人気が急上昇したのはこの作品からのようですが)、『1Q84』もあまり好みではありません」
―言葉の出現回数について強く意識されたのは、分子生物学を研究するご自身のお仕事や、翻訳を手がけられていることと関係があったりしますでしょうか。
「言葉の使い方には常に関心を抱いていて、それは翻訳とも関係はあると思います。ただ、翻訳には直接数えることは必要ないと思いますが。本業の方で塩基配列を並べたり数えたりするので、関係あるようには思いますが、そこを詳しく説明しても長くなるわりには面白くないような気がします」
―今回の投稿が多くの方から注目を集めていることについて、もし感想などがあればお聞きしたいです。
「数年前にもOCRでテキスト化したもので数えてツイートしたときにもよく読まれたのですが、今回はそれを圧倒的に上回るもので、みんな村上春樹が好きなんだなと思いました」
…本当にそうですよね!やれやれ!