大阪に住む中年男性が、不妊手術をしないで3匹の犬を飼っていた。雄犬と雌犬がいたので何回か子犬ができてしまった。それでも何の手立ても講じない男性。犬を飼うのに必要な知識がまったくないのだが、1匹の子犬が命を落とす最悪の事態に陥った。
「去勢なんかせんでいい」
大阪府に住むYさんの近所には長屋があり、そこには3匹の小型犬を飼っている中年男性が住んでいた。3匹の犬は不妊手術を受けておらず、分かっているだけで雌犬は2回出産したという。男性は、子犬が産まれるたびに、ケージを家の前に出して、里親を募集した。
男性の兄やYさんが子犬たちを引き取った。しかし、それでもまだ不妊手術を受けさせないので、2019年1月、また子犬が5匹産まれた。
兄が発見した時、子犬たちは大きくなりかけていた。慌てた兄は、Yさんに子犬の里親探しを手伝ってくれるよう頼みに来た。
男性は、「犬は去勢なんかせんでいい、かわいそうやん。そのままでいい。子犬はできたらできたでいい」と考えていた。さらに、5匹の子犬と3匹の親犬、合わせて8匹の犬を自分で飼うと言い張った。
子犬の里親を募集
2019年3月22日、Yさんは、兄が本当に困っている様子だったので、里親探しを手伝うことにした。
男性が5匹の子犬を入れたケージを外に出したので、Yさんは知り合いに見てもらうため、写真を撮影した。その時、1匹の子犬が吐くのをちらっと目にしたが、バイトに行く時間が迫っていたこともありやりすごした。
「犬は、お腹が空いている時にも吐くことがあるので、その時はあまり気にしなかったんです。でも、後から思えば、その子犬が天ちゃんだったのです」
その後、兄は奈良県の自宅に帰り、男性は子犬たちをそのままにしてパチンコに行ってしまった。パチンコから戻るまでの間、子犬たちは、そのまま外に置かれていた。近所の人によると、中学生が子犬を見て騒いでいたという。
カミソリの刃を誤嚥!?疑いと恐怖
4日後、男性は「もらってください」という貼り紙をして、3匹の子犬を外に出していた。大きくなった1匹の子犬と天ちゃんは部屋の中にいた。
Yさんは、もう一度じっくり写真を撮影したり、息子夫婦に写真を送ったりした。
その時、Yさんは恐ろしい話を男性から聞いた。
「こいつらなんでもくわえて持ってくる。この前なんかベッドの上にカミソリが落ちていたんやけど、カミソリを見たら刃があらへんし」
驚いたYさんが、「カミソリの刃はあったのか」と尋ねると、男性は、「ないねん。どこかやりよったんやろな」と言った。
Yさんは、「一刻も早く子犬たちをこの家から出さないと」と思い、「みんな預かって、どの子がいいか選ぶわ」と言った。子犬を1匹ずつ連れ帰り、シャンプーをして、家の中にいた2匹の子犬も迎えに行ったが、留守にしていて引き取れなかった。
ぐったりとした子犬
2日後、兄が男性のところに来ていたので、「残っている2匹の子犬を外に出して」と言った。大きな子犬はすぐに見つかったが、もう1匹はいないと言う。悪い予感がしたYさんは、子犬を探すように必死で頼んだ。3回目に探しに行った時、散らかった部屋の片隅にいた子犬を兄が出してきた。ほっとしたのもつかの間、ケージに子犬を入れると、そのままぐったりとして動かなくなってしまった。Yさんが吐いたところを見た子犬、天ちゃんだった。
Yさんは、兄と一緒に自分の犬のかかりつけの動物病院に天ちゃんを連れて行った。Yさんはバイトに行かなければならなかったので、何かを誤嚥した可能性があるというメモを獣医に渡し、兄に天ちゃんを託して慌ただしく仕事に向かった。
夕方、男性のところに行き、「なぜこんなことになるまで放っておくの?」と尋ねると、「病院なんか行っても治らない。ちょっとしんどいからねんねしとるだけや」と笑っていた。
二度と戻らぬ小さな命
翌日、兄が大阪に来たので天ちゃんの病状を尋ねると、「膵炎を起こしていて、いまは昏睡状態」だと言われた。天ちゃんは、誰かが部屋に入ってくるたびに起き上がり、尻尾を降って迎えに来てくれるような子で、Yさんは愛おしさと切ない気持ちでいっぱいになったという。
Yさんは、「私が預かるから」と言い、天ちゃんを連れ帰った。
31日、日曜日、天ちゃんは夜になると激しく吐いた。とても痛そうに体を「くの字」に丸めていた。Yさんは「朝まで待てない」と思い、大阪どうぶつ夜間急病センターにかけつけた。
検査してみると、天ちゃんは膵炎ではなく、レントゲンには誤嚥した金属片が写っていた。手術をするには飼い主の承諾が必要だったので、Yさんが兄に連絡すると、「費用は支払うので手術してもらってくれ」という返事が返ってきた。
「手術の前に天ちゃんの顔を見に行くと、ケージの奥から手前まで歩いてきてくれたんです。胸がしめつけられるような感じがしました」
天ちゃんのお腹には、胃と腸の境目あたりに軍手の端切れと金属片が詰まっていた。
「腸が壊死して、破れた腸からは、お腹の内容物が腹膜に飛び散っていました。獣医さんは手を尽くしてくれたのですが、天ちゃんの意識が戻ることはありませんでした」
その後、Yさんは、光麦(こむぎ)ちゃんと光豆(まめちゃん)という子犬を引き取り、Yさんの息子夫婦が子犬を2匹引き取った。
問題の男性は、親犬を1匹手元に残し、他の犬は兄に渡したという。