「ロケーションオーナーにロケフィー持っていって」まるで何かの撮影みたい?…<自動販売機編>

おもしろ業界用語

平藤 清刀 平藤 清刀

筆者は自衛隊を退職してから約半年の間、ある大手の自動販売機会社でルートマン(後述)として勤務した経験をもつ。自動販売機の世界にも同業者の業界があって、ほかの業界では耳にしない用語が飛び交っている。

法的には「飲食店」…1台ごとに営業許可

自動販売機(自販機)は、場所と電源さえあれば設置できるが、自販機は法的に「飲食店」という扱いなので、1台設置するごとに営業許可がいる。そして自販機を設置する場所のことを「ロケーション」といい、簡略化して「ロケ先」と呼ぶことが多い。ロケ先は街角だったり、店舗の軒下だったり、ビルの中だったりと、さまざまである。いずれの場合も、ロケ先の土地や建物の所有者のことを「ロケーションオーナー」という。また、自販機を買い取って、自ら商品の補充と機械のメンテナンスを行うオーナーのことは「自販機オーナー」と呼んで区別される。

ほとんどの自販機は、自販機会社のスタッフがロケ先を巡回して商品を補充し、売上金を回収していく方法で運営されている。そのスタッフのことを、オペレーターによって呼び方はやや異なるが「ルートセールスマン」とか「ルートマン」と呼ぶ。ルートマンは朝、営業所を出発したら、その日予定している自販機をすべて巡回し終えるまで営業所へ戻れない。筆者がやっていた頃は、ルートマン1人あたり70台前後の自販機を担当し、売れ行きによっては1日に30台ほどまわる。ロケ先から次のロケ先まで道路が空いていればいいけれど、渋滞に引っかかってしまうと時間のロスも多くなる。自販機に携わる業務の中で最もキツイ仕事だ。

それではロケーションオーナーは、場所を提供しているだけで、何の見返りもないのだろうか。土地や場所の賃料とは別に、設置してある自販機の1カ月間の売り上げに応じて、報酬が発生する仕組みになっている。その報酬のことを「ロケーションフィー」、略して「ロケフィー」という。ただし、金額は平均して中学生のお小遣い程度。

自販機の種類はポストミックス方式とプレミックス方式

自販機に商品を補充して売上金を回収する業務を「オペレーション」といい、オペレーションを行う会社を「オペレーター」という。オペレーターには大きく分けてふたつのタイプがある。飲料メーカーの子会社が、親会社の商品を売るためにオペレーションをやるタイプと、飲料メーカーから商品を仕入れて自社の自販機で販売するタイプである。

そして、販売方法にもふたつのタイプがある。ひとつは「プレミックス方式」というタイプ。飲料をペットボトルや缶、紙パックなどに充填して販売する方法で、容器が密閉されているため衛生管理がしやすい反面、商品がかさばるから数量を多く入れておくことができない。

一方、できたての飲料を紙コップで提供する自販機を「ポストミックス方式」という。機械の中で豆を挽いてレギュラーコーヒーを淹れたり、濃縮されたシロップと炭酸水を混合して機械内でコーラをつくったりする自販機のこと。プレミックス方式と比べて、一度の補充で多くの商品が提供できる。このタイプは製氷機を備えていて、中で氷をつくることができる。また、炭酸ガスのボンベを内蔵して、炭酸水も中でつくってしまう。まるで小さな飲料工場のような機能を備えているのだ。

生ものである原材料を機械の中に入れておくという特性上、衛生管理にはとくに気を遣う。そのため、外気に直接触れず、雨に打たれるおそれのない屋内に設置されることが多い。

「売り切れ」「つり銭切れ」「水漏れ」は自販機三悪

夏になると、売り切れが発生しやすい。スポーツドリンクやミネラルウォーターなど「つめた―い」飲料がよく売れるからだ。売り切れてしまうと、売り上げがそれ以上伸びないから、1日に2回補充することもある。

自販機に商品が入っていても、まだ安心できない。つり銭が切れていたら、小銭を持ち合わせていない客を逃がしてしまう。営業所では、朝礼が終わったらマネージャーが金庫を開けて、これから出発するルートマンに釣り銭用の10円玉を配分する。余った釣り銭は営業に戻ってきたときに返すのだが、返す分が多いとマネージャーから「釣り銭切れは大丈夫なんだろうな?」と念を押される。売り切れと釣り銭切れはクレームになりやすいのだ。

「水漏れ」は、ポストミックス方式の自販機でときどき起こる「事故」である。自販機の中で飲料をつくるので、外部から水を供給する構造になっている。設置場所の近くに水道があれば水道管からパイプ分岐して自販機に接続するが、水道から遠い場所なら自販機の中に20リットル程度の水タンクを設置する。パイプの継ぎ目がはずれて、機械の中で水漏れを起こすと、外にも漏れだして大変なことになる。

硬貨が素通りして戻ってくる、あの現象

自販機を使ったことがある人なら、経験したことがある不思議な現象。硬貨を入れても、素通りして返却口にチャリンと戻ってくる、あの現象を業界では「コインが滑る」とか「コイン滑り」という。

すべての自販機には、硬貨の種類を識別して釣り銭の払い出しをする「コインメック」という装置がついている。投入された硬貨は、まずコインメックを通って種類を識別される。コイン滑りを起こす原因のひとつが、この識別部分の汚れである。

ほかに、硬貨そのものの汚れも、コイン滑りの原因になる。汚れていないように見えても、硬貨はけっこう汚れているし、手の脂も付いている。もしコイン滑りで戻ってきたら、ためしに乾いたハンカチかティッシュで硬貨をよく拭いてから、もう一度入れてみるといい。コイン滑りは、これでたいてい直る。それでも滑るようなら、コインメックが汚れているのだ。

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