準備はすべて揃って、いざ撮影本番。しかし井筒監督のこだわりは想像の遥か上をいっていた。「“妥協”という言葉がない方なので、とにかく粘って自分が納得するまでカメラは回さない。『ラストテスト!』と言いつつ20回以上テストが続くのは当たり前。誰も井筒監督の『ラスト!』という言葉を信じませんでした」と笑う。
しかも全編フィルム撮影を敢行。時間をかけたテストの末に本番が終わり、井筒監督から念願のOKが出た。ところが「そういうときに限ってフィルムにホコリが入ってしまって技術NG!そこからまた『ラストテスト』が始まる。そんなときはみんな涙目…。毎シーン終わるたびに共演者同士でハイタッチしながら『ホコリよ、入るな!』と祈る毎日でした」と苦労を明かしつつも、どこか楽しそう。
それは完成した作品も井筒監督の演出スタイル同様に想像の遥か上をいっていたからだ。荒ぶる男たちが画面狭しと暴れに暴れた名作映画『仁義なき戦い』と同じパッションが『無頼』にはある。「井筒監督は、役者が出し尽くして出し尽くして何も出ないという境地から出てくるものを撮りたがる。一生終わらないのではないか?と思うくらい大変な撮影でしたが、完成した作品には手を抜いたカットが一つもないし、下手な芝居をしている人が一人もいない」と手応えしかない。
柳は「オーディションも撮影も含めて、私の中ではとても大きな経験値になりました。女優としての自信も得たし、メンタル面も成長した気がする。だから怖いものはもうありません!」と一皮むけた感慨。その宣言通り、柳ゆり菜の堂々たる演技は必見だ。