映画『ガキ帝国』『パッチギ!』『ヒーローショー』。アウトサイダーたちの荒々しくも不器用な生き様を見つめてきた映画監督・井筒和幸(68)による8年ぶりの新作映画『無頼』が、12月に公開される。
昭和・平成の社会情勢を背景に、貧困や出自ゆえに社会からはみ出した男たちがヤクザとしてのし上がる姿を描く群像劇。アウトローの妻になるホステス・佳奈を、女優の柳ゆり菜(25)が紅一点で演じている。並み居る映画監督の中でも、演出の厳しい“鬼”として知られる井筒監督。しかも8年ぶりの新作。オーディションも撮影も、柳がこれまで経験したものとはまるで違った。柳が浴びた井筒組初参加の洗礼とは。
オーディション会場で目に飛び込んできたのは“大げさな演技禁止”という張り紙と、体育会系雰囲気バリバリの助監督たちの姿。一般的なオーディションの場合、会場で演技をして後日に合否が下るという流れだが「演技中に履歴書にバッテンを書かれてその場で失格になる人もいたし、『あなたは全然できていません。帰ってください』とキツイことを言われる人もいました。怖すぎて笑ってしまうくらい、ザ・昭和の活動屋という雰囲気が漂っていました。これまでに受けたオーディションの中でも一番印象的」と苦笑い。
通常数分で終わるはずのオーディションも、柳は2時間も続けた。徹底的にふるいにかけていい人材だけを集める尖鋭主義。すべてはリアリティ溢れる映画を作るため。ゆえに見事役を得た柳を待っていたのは、井筒監督に演出を受ける前に助監督たちが行う4カ月にわたるリハーサルだった。資料として渡されたのは井筒監督版ウィキペディアともいえる、『無頼』製作ガイドブック。それを基に映画に出てくるセリフや実際の事件など戦後日本史を学ぶ勉強会からリハーサルはスタートした。
井筒監督に中途半端なものは見せられない。いざ本読みの段階になると、助監督たちの演技指導もヒートアップした。細部に渡るダメ出しは当たり前で「あまりに考えすぎてしまって、扉を閉めるだけのシーンなのにそれさえできなかった。自分でも何が正解で何が間違っているのかわからなくなることもありました。胃が痛くなりながらリハーサルに向き合う日々で、とてつもなく厳しい部活に入った気分でした」と振り返る。
かなり厳しいトレーニング期間になったわけだが「4カ月もの間に助監督さんやほかのキャストの方々とコミュニケーションを取る中で、佳奈という役柄ができあがっていく実感がありました。男泣きも見たし、凍ったような空気も経験しましたが、それだけみんな本気だった。リハ時間を贅沢にもらえるのも最近の映画の撮り方にはないもので、撮影に入るころには“同志”のような絆がスタッフ・キャストの全員にありました」とかけがえのない時間でもあった。