疫病退散を祈る祭りなのに無念の中止 新型コロナ感染拡大「もし参加児童の体調に…」宮司が苦しい胸の内

浅井 佳穂 浅井 佳穂
2018年に行われた「玄武やすらい祭」。傘を先頭に太鼓や笛が続く(玄武神社提供)
2018年に行われた「玄武やすらい祭」。傘を先頭に太鼓や笛が続く(玄武神社提供)

 疫病退散を祈るお祭りなのに、新型コロナウイルス感染拡大のため中止に-。京都市北区の玄武神社で毎年行われている「玄武やすらい祭」が、今年は中止と決まりました。平安時代から千年以上にわたって続く歴史あるお祭りの中止について、神社の宮司は、決断を下すに至った苦しい胸の内を話してくれました。

 「玄武やすらい祭」は、京都市北部の4地区に伝わる伝統行事の一つで、「やすらい花」として国の重要無形民俗文化財に指定されています。春の花盛りの時期、花を飾った柄の長い和傘を持った男性が、子どもたちの奏でる笛や太鼓の音ととともに氏子地域を練り歩くものです。文化庁の「文化遺産オンライン」によると、祭りの様子は平安時代末期の記録にも登場するそうです。

 お祭りの起源は、京都らしく風雅です。平安時代の人々は、春の花が散る際に人々を悩ませる悪霊や疫病の神も飛び散ると考えていました。薬草や季節の花を飾った傘の下に入ることで、人々は無病息災にあずかることができるとされています。

 玄武やすらい祭は、例年4月の第2日曜に行われており、今年も4月12日に実施予定でした。ところが、新型コロナウイルスの感染が拡大したため、3月8日に関係者が集まり中止を決めました。感染症による玄武やすらい祭の中止は、千年以上の歴史で初めてではないか、ということです。

 椙本貴子宮司(56)によると、氏子総代らが集まったこの会議では「疫病封じというお祭りの意味合いを考えると実施すべき」という意見も出たそうです。

 しかし、椙本宮司が一番に考えたのは、笛を担当する小学生や、太鼓などを受け持つ中学、高校生たちの健康だったそうです。

 「例年だと4月1日からの春休み中に笛や太鼓の練習が始まります。子供たちが集まる練習の場で感染が広がったらどうしよう、と考えました。また、仮に4月12日にお祭りを行ったとして、後になって子供たちの体調に異変が起きたら、来年以降の玄武やすらい祭が実施できないのでは、とさえ思いました」

 会議ではほかにも「祭りを秋に延期してでもできないか」という声が上がったと言います。しかし、椙本宮司は延期の困難さを語ります。

 「秋は、春休みのようにまとまった練習期間を直前に確保できないため、現実的ではありません」
 会議の議論は中止へと向かっていきました。「もし(関係者の)みなさんが実施するという結論を出したなら、消毒液の手配などをしなくては、と考えていました」。

 中止の決定を経て、椙本宮司は「今はほっとしている部分もある」と心中を吐露します。

 お祭りが実施される予定だった4月12日には、宮司が神社で新型コロナウイルス退散と氏子の健康を祈ると言います。

 来年の玄武やすらい祭は4月11日に実施予定です。椙本宮司は「どのようになるかまだ分かりませんが、例年通りのお祭りをできれば」と願っています。

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