猫を飼う人が急増中です。犬と猫の飼育頭数を比較すると、2017年に猫が犬を抜いてしまいました。猫は散歩に連れて行く習慣が無く、狂犬病の予防接種義務もありません。排泄は猫のトイレでしてくれます。そのため、ひとり暮らしの方が、『家族』として気軽に飼うことが増えているようです。しかし、そこで問題になるのが「家を空けなければならないとき」です。
猫は1〜2日程度家を空けても、ご飯と水分の供給が途絶えなければひとりでお留守番が可能です。しかし、いま国内ではコロナウイルスの蔓延で、飼い主さんが突然の体調不良で、緊急入院するようなケースがあるかと思います。その場合、どのていど入院することになるのかも分かりません。
そのようなときはどうしたら良いのでしょうか?一般的には犬猫の介護施設やボランティアの動物保護団体が相談に乗ってくれます。しかし、これらを利用するにはお金だけでなく、お願いをする「時間」が必要になります。
急に誰かに世話を頼まなければならなくなった場合、親しい間柄の親戚や友人に頼むことが出来るのは、かなりラッキーな人です。多くは誰にも頼めず相談する時間もなく、やむなく動物保護管理センターに持ち込み、永遠のお別れをする方もおられます。お金に余裕がある人の中には、動物病院に預ける方もおられます。しかし、狭いステンレスケージの中で重病動物に囲まれた生活は、とても豊かな暮らしとは思えません。
高齢者が長年猫を飼っていてお亡くなりになった場合、身内の方が遺品整理などでその家に入ったときに、猫は怖がって家を飛び出してしまい、そのまま行方不明となってしまうといった胸の痛む事例も多くあります。
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シロちゃんも、ひとり暮らしのお婆ちゃんが飼っていた猫でした。高齢者は住んでいらっしゃる家も高齢である場合も多く、その場合、窓や隙間が多いため、猫たちを室内飼育しているつもりでも、勝手に内外を自由に出入りする生活になってしまうこともしばしばです。シロちゃんもそうでした。そのお婆ちゃんはたくさんの猫を飼っていて…といいますか、たくさんの猫に餌を与えていました。
どういった経緯かは分かりませんが、そのお婆ちゃんは亡くなってしまい、猫たちは身寄りのないホームレス猫になってしまいました。お婆ちゃんの家の近くにあったかかりつけ動物病院のスタッフによって、シロちゃんともう1匹の猫が発見され、状況が確認されました。しばらくスタッフは、シロちゃんたちを見つけてはご飯を与えていましたが、やがて一匹は行方不明となってしまいました。
お婆ちゃんの隣の家の人が見かねて、夜だけシロちゃんを自分の家のお風呂場に招き入れました。動物病院のカルテを見ると、 シロちゃんは7歳の女の子で、とても健康で何の持病もありませんでした。しかし、寒い冬がやってくるとホームレスの暮らしには厳しい生活があり、シロちゃんは下半身の毛が全部なくなってしまいました。
当時、その動物病院には私の友人が勤務しておりましたが、病院のスタッフで動物を飼っていないのは彼女だけだったので、皆が『シロちゃんはあなたが飼ったらどうでしょうか?』という雰囲気になり…当時住んでいたアパートはペット不可でしたが、こっそり自分の部屋で飼うことにしました(ごめんなさい!)。
でも、シロちゃんは飼い始めた当初、外に出たくて出たくて鳴き続け、鳴き疲れて嘔吐することを繰り返しました。彼女はシロちゃんのためにとても背の高いキャットタワーを買い、掃き出し窓の脇に設置しました。住んでいたアパートは2階で、この窓からは遠く瀬戸内海まで見渡せました(アパートは、岡山県の瀬戸内近くにありました)。さっそくシロちゃんはキャットタワーに登り、一日の大半をそこで外の景色を眺めながら過ごすようになりました。次第にアパート生活にも慣れ、シロちゃんの下半身の毛も、徐々に生えそろっていきました。
シロちゃんは、皮膚の熱いという感覚が鈍いのか、 冬には電気ストーブに近づきすぎてひと冬に2回程度、脇腹の毛を焦がしました。毛が焼け焦げるにおいがして彼女が気付き、シロちゃんをストーブから離すということを繰り返していました。焦げた毛は茶色くなり、だんだん抜け替わってまた白くなっていきました。
その後、彼女は実家のある石川県に移り住み、そのときもシロちゃんを一緒に連れて行きました。その後結婚して、子供も生まれて…その間もシロちゃんはずっと一緒でした。そして、彼女が飼うようになってから10年後に、高齢猫の多くが罹る腎不全になり、だんだんやせ細り食べられなくなり歩けなくなり、2年間の闘病の末、17歳で亡くなりました。
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ペットを家族同様に…といっても、どうしても人間ではないために、家族として扱えない場合があります。東日本大震災のときも、多くのペットがやむなく家に取り残されました。
ペットは自分ひとりでは生きてはいけません。ひとり暮らしの方がペットを飼っていて、何かの事情で家に帰れなくなったとき、それは悲惨なことになる可能性があります。ここはひとつ、ペットのため『ママ友』ならぬ『イヌ友』『ネコ友』をつくっておくのが良いでしょう。
犬を飼っていらっしゃると散歩のときにお友達が出来やすいのですが、猫の飼い主はなかなかそういう訳にはいきませんね。最近では、保護猫の猫カフェがあり、そこで気に入った猫がいれば家に連れて帰って里親になれるといったお店もありますが、そういったカフェをなじみにするのも良いでしょう。つながりがあればいろいろな情報が得られますし、突然の入院の場合なども、相談できるかもしれません。
シロちゃんのお婆ちゃん同様に、自分がいつ亡くなるかは分かりません。ひょっとして明日かもしれません。そのとき世話をしなければならないペットがいる場合、とても心残りですね。どうするのかの希望を遺言に残しておくのは賢明だと思われます。