驚いたのは、いまだかつてない自分自身の姿。「テレビでのいわゆる悪役はやったことがありますが、ここまで振り切った人間は初めて。僕自身は殴り合いの喧嘩などしたことのない穏やかな人間ですから、牧師役の金田明夫さんを殴りつけるシーンは『なんて酷いんだ…』と思いながら演じていたくらいです。金田さんのリアクションも抜群に上手いので心が痛みました」。
ところが“何を考えているのかわからない”その不可解さが物語の強度になっていることを知る。「テレビドラマの場合、基本的にわかりづらいものは作られません。それは不特定多数の視聴者に向けて作られているからです。すると役者もわかりやすい芝居を選びがちになる。役者は役を演じる際に、展開を含めてすべて自分で理解し計算して演じたがるけれど、今回の映画を通して監督にゆだねるという大切さを知りました」と新鮮な学びがあった。
本筋には影響を与えないようなシーンでも、渡辺演じる広志の異色さは際立っている。スーパーで買い出しをする場面では、買い物かごの枠の一部を掴んで気だるそうにぶら下げて歩くことで、近寄り難い雰囲気を表出。些細な描写だが、それによってキャラクターが立体的になる。“神は細部に宿る”だ。
「スーパーのシーンはこんな些細な場面なのにそんなにテイクを重ねるの!?と思った最たる場面です。10回以上テイクを重ねました。大山監督はライブ感を大切にするので、大まかな枠は作りながらもセッションのように作りました。結果、隙のない動きになっています。買い物カゴをなぜ変わった風に握ったのか?そこは無意識なので覚えていませんが、いい感じにお客さんが深読みしてくれると楽です」とニヤリ。ベテランの初怪演、とくとごらんあれ。