探偵は本当に「バーにいた」 開業した元刑事の誇り、でも「映画みたいには...」

樺山 聡 樺山 聡

 京都には有名な私立探偵がいる。その筆頭が「相沢京子」と「目川」だろう。いずれも顔入りの広告写真が新聞の片隅や電話帳に、たびたび登場した。名前を聞いてぴんとこなくても、その顔を見れば思い出すのではないだろうか。しかし、不思議だ。本来、影絵のごとく身を潜めて暗躍するはずの私立探偵が、なぜ表舞台に「顔」をのぞかせたのか。誰に頼まれた訳でもないが、突如舞い降りてきた「依頼」に応えるべく、探偵を探偵してみたい。

 新米探偵はバーにいた。

 昨年3月に京都市内で誕生した探偵事務所「寄(よ)す処(が)探偵社」(下京区)。芸術家が長期滞在する空間「寄す処」を運営する沼沢忠吉さん(56)が開いた。探偵事務所は、滞在者らが交流するために設けた「バー」。と聞くと、格好だけのおふざけと思うかもしれないが、正真正銘、れっきとした私立探偵である。

 沼沢さんは元刑事だ。茨城県警で約20年、強盗などの凶悪犯罪を担当した筋金入り。そり上げた頭に短いヒゲ。一見こわもてだが、性根の優しい人物である。

 「少しでも笑顔を増やしたい」。それが探偵を始めた理由だという。被害者の更正までは関わることが難しい刑事の仕事に限界を感じた沼沢さんは県警を早期退職。2013年、京都に移り住んだ。さまざまな人々が訪れる「バー」では、ストーカーやDVの被害などの相談を受けることが増えた。「自分の経験が生かせるなら」。そう思い探偵社の設立に至ったという。

 一風変わった探偵ではある。「浮気調査はやらない。誰も幸せにはならないから」。この1年で実績は3件。被害者と警察との橋渡しを担った。いずれも相談だけで調査には至らなかったため無報酬という。「映画みたいに格好良くはいかないもんです」。私立探偵フィリップ・マーロウを気取ってカウンターでバーボンを飲みながら沼沢さんは笑う。「でも、あくまで理想は、依頼のない探偵社」

 と言っても現実は厳しい。いつの世も、愛や喜びと不信、憎しみは背中合わせ。尾行、盗撮、盗聴…、あの手この手で調査対象者に知られずに情報を入手する探偵の出番である。暗躍する「仕事人」は当然、世間様に顔が知られては支障がある。黒子のような存在でなければならない。

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