「一斉休校は歴史に残る愚策」 国の新型コロナ対応、元文部官僚の寺脇氏が痛烈批判

黒川 裕生 黒川 裕生

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、2月27日夜に安倍晋三首相が「要請」した小中高校や特別支援学校の全国一斉臨時休校。あまりにも唐突だったこともあり、子育て家庭や教育関係者らを中心に大きな動揺、反発が広がった一方、「やむを得ない対応」と評価する声もある。そんな中、教育者の立場から「全国一律の休校など世紀の愚策」と憤っている人がいる。元文部官僚で、「ゆとり教育」の旗振り役としても知られる寺脇研氏だ。

 現在、自身が企画・統括プロデューサーを務めた映画「子どもたちをよろしく」のキャンペーンで、全国を飛び回っている寺脇氏。大阪でインタビューする機会を得たため、これ幸いと「映画の話の前に臨時休校のことを伺っても構いませんか?」と尋ねると、「もちろん!」と快諾してくれた。

 最初に結論を書くと、寺脇氏の持論は「子供たちにとって学校ほど安全な場所はない」ということに尽きる。学校には保健室という“準医療施設”があり、養護教諭もいる。給食で栄養管理され、担任教諭が子供の状態を確認する習慣がある。被虐待児にとっては一時的な避難所としても機能しているといい、「こんなにも安全な場所から子供を引っ張り出してどうするんだ」という趣旨である。いじめに遭っている子はどうなんだ、などの指摘はあるかもしれないが、今回は言及しない。

学校ほど安全な場所はない

 「全国一斉なんて、本当にバカバカしい。都市部の生徒が多い学校なら休校にも意味があるかもしれないけど、田舎の学校なんて何人いると思ってんの。1学年に数人どころか、先生ひとり、生徒ひとりという所もあるんだよ。国のトップがそんなバカなことを言い出したら、周りが止めないといけないのに、全部ぶっ飛ばしてる。これを独裁っていうんだ」

 「学校は、少なくとも放課後児童クラブ(学童保育)よりは遥かに安全な場所。そもそも、学童のキャパシティはそんなに多くない。厚労省が『学童では1m以上間隔を空けて活動を』と通知を出していたけど、普通の学童ではおそらく無理。でも休校になると、利用が増える。だから学校の教室を借ります…って、じゃあ学校でいいじゃん!もはやブラックユーモアの世界ですよ」

 一気呵成にまくし立てる寺脇氏。退官後も社会教育問題に取り組み続けているだけに、現場の実態にそぐわないと感じる休校要請への怒りは相当なものだ。

実態をわかっていない人の「愚策」

 「一定規模以上の学校には保健室があり、養護教諭が常駐しています。つまり校内に“準医療施設”があるわけ。それに、学校医さんもいます。また、クラス担任は毎朝子供たちの健康観察、要は顔色を見るよう習慣づけられている。毎日見ているから小さな変化もわかるんです。そこで発熱などの異常に気づいたら、保健室や学校医につなげばいい」

 「そうはいっても、ひとつの教室で三十何人が濃厚接触するという懸念はある。確かにその通りです。でも今は、子供が減っているからどこの学校でも空き教室があるわけ。他にも音楽室や理科室など、部屋はいくらでもあるんだから、分散して学習させるという対応もできるはず。だから文科省は反対したわけですよ。本当に、『世紀の愚策』だと思う。明治時代に学制が公布されてから今年で148年。今回のような決定は前代未聞。そういう意味では、安倍さんは歴史に名を残すでしょうね」

 「もっと言うと、残念ながら全ての子供にちゃんとした親がいるわけではないし、みんなが家でおとなしくできるわけでもない。肉親から虐待を受けていて、学校にいる間だけ逃げられている子供はどうするの?ひとり親家庭の子は?給食でしか栄養補給できないような貧困家庭の子は?…今や学校は、ある種の子供たちにとってシェルターの役割もある。そういう実態を全然わかっていない人が考えた対応だと思いますね」

■寺脇研(てらわき・けん)

1952年生まれ、元文部官僚。官僚時代は「ゆとり教育」の旗振り役として、「ミスター文部省」とも呼ばれた。退官後も民間の教育者の立場から社会教育問題に取り組んでいる。京都造形芸術大学教授や映画評論家、映画プロデューサーの顔も持つ。

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