2008年の発売以降、長く、広く、入門期の非漢字圏の日本語学習者の助けとなってきた漢字学習書がSNSで話題となっています。『ストーリーで覚える漢字300』は、ただ漢字の読み書きを記しているだけではありません。個々の漢字について、その字形と意味を表したストーリーとイラストを付加しています。そうすることで学習者の中で感覚的に漢字の字形と意味がつながり、記憶として定着するよう工夫されているのです。オリジナリティあふれる漢字学習書が出版されるに至った経緯や、そこに込められた思いを聞きました。
本書を出版しているのは「くろしお出版」。1948年の設立以来、言語学や日本語学の書籍、日本語教材などを出版してきました。本書は非漢字圏の学習者にとって苦手とされる漢字を楽しく短時間で覚えられるような工夫がされた教科書です。例えば「駅」は、昔は馬がいて現在はJRのサインがあるという、鉄道の発着所としての意味が記憶に残りやすいよう工夫されています。本書は現在までシリーズ累計で約5万部を売り上げ、英語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語、インドネシア語、タイ語、ベトナム語(7ヶ国語)の翻訳付きで初級~中級レベルの漢字500字が学べるようになっています。本が編纂された経緯などを同社の編集者、市川麻里子さんに聞きました。
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―とてもユニークな漢字学習書です。
「本書はある日本語学校で行われていた、学習者自身が覚え方を考えたり、アイデアを出し合ったりする参加型の授業から生まれました」
「ですので漢字の成り立ちを表したストーリーとイラストは必ずしも漢字本来の由来とは一致しません。非漢字圏の日本語学習者にとって、漢字学習は大変困難なもの。そのような漢字知識ゼロの日本語学習者でも、印象的に字形と意味が記憶に残る、というところにコンセプトを置き、開発されました」
―反響は。
「本書は、入門レベルから使える日本語学習者用の漢字学習テキストとして、留学生が学ぶ日本語学校や大学はもちろん、日本で暮らす外国人の子供たちの教室でも愛用されています」
「『短期間で楽しく漢字が覚えられた』『漢字を忘れなくなった』などの意見も寄せられています。日常生活面で漢字の読み書きがままならなくても、形を見て意味が分かるというところが、外国人が日本で生活する上での安心と自信に繋がっているのだと思います」
―日本語学習者の数は。
「現在、外国人留学生は約30万人に及び、非漢字圏のアジア諸国からも増加傾向にあります。また、入管法の改正もあり、技能実習生に加え特定技能など、様々な目的で来日する外国人は増える一方です。ぜひ非漢字圏の学習者の方々には本書を参考にしていただき、自身でも覚えやすいオリジナルストーリを作成するなどして、楽しみながら漢字を学習してほしいです」
※本書詳細は以下のアドレスまで https://www.9640.jp/nihongo/ja/detail/?402