人気店だったのに…客の自転車撤去相次ぎ、ステーキ丼店が無念の移転 「駐輪場不足」市の対策に店主不満

高野 英明 高野 英明

 「誠に残念ながらこの地での商売は不向きと判断致しました」。2019年12月、京都市の人気ステーキ丼店が、そんな文面の張り紙を残し、街中から郊外へと移転した。市の駐輪取り締まりが厳しく、来店客の自転車をたびたび撤去されたことが理由という。路上駐輪は持ち主の責任としつつ、「市のインフラ整備にも問題はあるかと思われます」と不満がつづられていた。京都市の駐輪対策は放置自転車の台数をピークの1%以下に減らすほど効果を上げているが、負の影響もあるのかもしれない。店主に詳しい話を聞いた。

 京都市左京区の叡山電鉄・元田中駅近くに店を構えていた、その名も「すてーき丼屋」。国産牛のステーキを載せた丼が手ごろな値段で食べられるうえ、京都大の吉田キャンパスに近い好立地も手伝い、学生らでにぎわっていた。

 男性店主(51)は「2014年7月に開業してから3年ほどは、右肩上がりで売り上げが伸びていました」と振り返る。

 状況が一変したのは2018年。「そのころから、放置自転車の撤去が急に厳しくなりました」。賃借している建物の前に駐輪できるスペースがあまりないため、利用客の多くは歩道上に自転車を止めていた。それを市から委託を受けた業者が次々に撤去し、トラックで一時預かり所に運び去っていったという。

 「撤去作業のトラックが1日に何度も店の近くに来るんです。来店して食事中の客の自転車が半年で40~50台は持ち去られたと思う。京都観光に来たタイ人の女性グループがレンタサイクルを持って行かれ、泣きついてきたこともありました」

来店客が半減

 自転車がすぐに持って行かれるとなると、客もおちおち食事を楽しんでいられない。当然ながら客足に響いた。「ピークで1日120人くらいだった来店客は、半減しました」

 店主も手をこまねいていたわけではない。店の近くには臨時駐輪場がないため、駐輪場所を自前で確保しようと近隣の月極駐車場に問い合わせた。「だけど、自転車が倒れたときに契約者の車が傷ついてしまうからと断られた」

 格安メニューを設けるなど営業努力も重ねたものの、売り上げ減に歯止めがかからず、とうとう2019年12月22日に閉店。約6キロ離れた左京区静市市原町に移転した。

 店主は、市の条例で禁じられている歩道上の駐輪は良くないとしながらも、「そもそも駐輪場や路線バスといったインフラを十分に整備していないのはどうなのか。店が面している東大路通で撤去作業が多いのも納得いかない。京大生を狙い撃ちにしているのでは」と、市のやり方に疑問を投げ掛ける。

 放置自転車対策による影響を受けているのは、このステーキ丼店だけではない。

 東大路通の向かいで営業するうどん店も、駐輪の取り締まりで客足が大きく減ったという。店主の男性(61)は「2018年に駐輪の取り締まりが厳しくなり、学生の自転車が根こそぎ持って行かれた。一度離れた客は戻ってこない」と嘆き、「駐輪場を十分に設けず、厳しく取り締まるのはひどくないか。それに元田中駅周辺の撤去回数は、ほかの場所に比べて多いと思う。市内を均等に取り締まらないのは不公平ではないか」と憤る。

「京大周辺は巡回多く」

 京都市自動車政策推進室によると、放置自転車撤去の委託先は、18年度から現在の業者になった。ステーキ丼店とうどん店が「取り締まりが厳しくなった」と訴えている時期と合致する。

 また、自転車撤去の巡回スケジュールは市の指示に基づいて行われており、頻度も地域によって変えているという。ステーキ丼店があった地域を含む京大周辺は「巡回を多くしている」(同室)と認める。

 それでは駐輪場はどうか。市は放置自転車の撤去を強化する一方、駐輪場の整備にも力を注いできた。直営の増設に加え、民間事業者に資金を助成するなどして、過去10年間に駐輪場を2倍以上の234カ所に増やしたが、「場所によっては駐輪場が十分にないところもある」(同室)。元田中は、周辺にまとまった台数を止められる駐輪場はなく、最寄りの「百万遍まちかど駐輪場」は600メートル離れている。しかも同駐輪場は67台しか収容できず、日中は満杯だという。

 市は「駐輪場は今後も整備していく方向だが、土地の確保が難しいうえ、財源も限られている。周辺地権者との調整も必要だ」と課題を挙げる。一方、自転車利用者に対しても「店舗近くに駐輪場があるとは限らない、50メートルや100メートルくらいの距離なら、自転車を止めて店まで歩くよう、意識を変えて欲しい」と理解を求める。

 駐輪はルールやマナーを守るのが当然とは言え、駐輪場が十分にないまま取り締まりを厳しくする一方では、飲食店などから不満も出てくる。バランスの取れた施策が求められている。

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