名刺を頂戴しました。『和詩倶楽部 広報部長 柴田すばる』。左上には「おおきに!」の吹き出しとともに柴犬の写真がデザインされています。柴犬好きの方ならご存知かもしれません。柴田部長はフォトブックまで出版されている有名犬ですから。京都・二条城近くで和紙を使った和雑貨を製造・販売する『和詩倶楽部』の商品モデルを務めたことから人気に火が付き、広報部長に任命されました。
柴田部長は元保護犬です。“秘書”を務める女性(つまり飼い主さん)が先代犬を亡くし、「犬のいない生活はさみしいけれど、まだ迎える気にはなれない」と保護犬の預かりボランティアに登録したところ、最初に来たのがすばる君でした。そして、里親さんが決まらないまま1年半が過ぎ、正式に秘書さんの家族になったのです。
もちろん、最初は売り出すつもりなどありませんでした。仕事で付き合いのあった和詩倶楽部の社長が、秘書さんを喜ばせようとすばる君をモデルにポチ袋を作ったのが始まり。発売直後はそれほどでもなかったそうですが、ここ数年の柴犬人気に後押しされ、見る見るうちにアイドル的存在になりました。
数年前までは、油小路店に“出勤”して写真撮影に応じるなど接客もしていましたが、推定14歳のおじいちゃんになり、お店に出るのは控えています。では、「広報部長」の任を解かれたのかといえば、そうではありません。「柴田部長シリーズ」はラインナップが増え続けていますし、それらの商品を目当てにショップに来るお客様もたくさんいます。
ただ、今はどちらかと言えば、「保護犬について広く知ってもらう」ための広報活動に余念がありません。正確に言えば、以前からそちらの「広報部長」も務めていたのですが、メディアなどに取り上げられるのが「和詩倶楽部の柴田部長」だったのです。
すばる君を迎えたことで、保護犬や保護猫の問題により積極的に取り組むようになった秘書さんは今、すばる君を含めて5匹の保護犬と暮らしています(うち1匹は預かり中)。そして、その子たちの日常をSNSで発信することで、保護犬の存在を知ってもらい、かつ、その背景にある“闇”を想像してもらえればと考えています。
「テリアのハンナはブリーダーの飼育放棄。クロエは雑種で、一軒家に60頭いた多頭飼育崩壊の現場から保護しました。コーギーのちょびまるは放浪していたところを保健所に保護されたそうですが、会陰ヘルニアという病気で自力排便ができなかったので、たぶん遺棄されたんでしょう。ちび太は個人の飼い主さんから飼育放棄されたトイプードルで里親募集中です。保護犬や保護猫がなぜ存在するかといえば、そこには深い“闇”があります。でも、そういう悲しい部分からは目を背けたい人もいるでしょうから、私はできるだけ明るくポジティブに、楽しい発信をして、保護犬のことを知ってもらえればと思っています。イベントで話をするときも同じですね」(秘書さん)
すばる君は保護犬や保護猫のためのイベントに参加することもあります。例えば、柴犬をテーマに創作活動をしている作家さんたちのイベント。その中にいくつかチャリティーショップを出して、売り上げは保護犬や保護猫のために使う。また、里親募集中の犬や猫の写真を展示して、申し込みを募ることもあるそうです。
「すばるが行く時間を告知しておくと、その時間に合わせて来てくださる方もいるので集客につながりますし、イベントをきっかけに『次は保護犬を』と言ってくださり、実際に迎えてくださった方もいるんですよ。日本では“寄付”や“チャリティー”というとまだまだ敷居が高いので、すばるに会いにイベントに来て、ちょっとお買い物してくださる方が増えるのはうれしいですね」(秘書さん)
14歳のすばる君の家族は、16歳のハンナちゃん、13歳のちょびまる君、11~12歳のクロエちゃんと老犬ばかり(年齢は推定。預かり中のちび太君は7歳)。まもなく介護も始まるでしょう。でも、秘書さんはネガティブにはとらえていません。「そのことも隠さず書いて、“終生飼養”について考えてもらえればと思います」。すばる君、広報部長としてますます忙しくなりそうですよ!