“ストーカー”をして家猫になった茶トラのタイガ 来る日も来る日もすり寄ってきて…

岡部 充代 岡部 充代

 兵庫・西宮市にあるマンションの一室。茶トラ猫のタイガ君は窓の外を見て、「出して!」と言わんばかりに鳴くそうです。無理もありません。ほんの2カ月前まで自由気ままに暮らす外猫だったのですから。でも、無理やりここに連れてこられたわけではありません。ある女性を“ストーカー”して家猫になったのです。

 

 昨年12月初め、立花二三江さんが仕事帰りに近くの公園を歩いていると、突然1匹の猫が現れて足元にすり寄って来ました。ちょっと体をこすり付けてきた、という程度ではなく、立花さんが歩きづらいと感じるほどで、「まとわりつく」という表現がぴったりのすり寄り方だったそうです。

 「他にも歩いている人はいたのに、なぜか私にだけ…」

 初めて会った日のことを、そう振り返る立花さん。一度きりなら「たまたま」ということもあるでしょう。でも、タイガ君の謎の行動は、立花さんがその辺りを通るたびに繰り返されました。

 

 犬や猫は“犬好き”“猫好き”が分かる―よく聞く話です。でも、立花さんはもともと動物が苦手。子供の頃に喘息を患い、近寄らないようにしていたことが影響しています。数年前から犬を飼うことになり、もう苦手意識はありませんが、それでも猫に興味はなかったとか。それなのに、なぜかタイガ君はたくさんの通行人の中から立花さんを“選んで”、来る日も来る日もすり寄って来ました。

「ご近所の方に聞くと、小さい頃からその辺りにいたみたいで、誰かに飼われていたわけではなさそうなんです。それに、姿は見るけどすぐに逃げるって。だから、いまだに不思議なんですよね。振り切ってもついてきましたから」(立花さん)

 

 交通事故など危険な目に遭う前に、なんとか保護したいと考えるようになった立花さんは、関西を中心にノラ猫や保護猫に関する“お手伝い”をしている『ねこから目線。』の協力を得て、タイガ君の捕獲に成功しました。そして、猫の不妊手術を専門とする『ねことわたしスぺイクリニックKOBE』で去勢手術をしてもらっている間にケージなどを準備し、タイガ君をおうちに迎えたのです。

「家族はれお(先住犬のトイプードル)のことを心配していました。ストレスになるかもしれないって。タイガが来て4日目に初めてケージ越しに対面させたんですけど、その日れおはごはんを食べませんでした。でも、年末年始の休みの間に様子を見ながらリビングで一緒にいる時間を作ったら、最近は鼻をくっつけるほど近付けるようになったんですよ」(立花さん)

 

 タイガ君の右耳先端は桜の花びらの形にカットされています。「もし家の中の生活に慣れないようなら、外に戻すことを考えたほうがいい」とアドバイスされ、外猫に戻ったときに手術済と分かるようにするためです。

 でも、タイガ君は家猫として快適に暮らしているように見えました。男性が苦手なのか、お父さんには「シャーッ」ということがあるそうですが、そのお父さんが「うちに来た頃と顔つきが変わった。表情が穏やかになった」と証言するのですから、立花家での生活が快適でないはずはありません。冒頭で「窓の外を見て鳴いている」と書きましたが、ちょっと遊びに行きたいだけなのでしょう。

 

 もともと立花さんはタイガ君を一時的に預かって里親を探すつもりでした。譲渡会に参加したこともあります。今も「うちよりもタイガにとっていい環境で、本当にタイガをかわいがってくださる方がいればお譲りしてもいいと思っています。それがタイガにとって一番の幸せなら…」と話しますが、一緒にいる時間が長くなればなるほど、里親探しのハードルは高くなるはず。余程のご縁がない限り、もう手放せないのではないでしょうか。

「テレビを見ているとき、れおが膝に乗ってくることが多いのですが、夫が部屋に入ると、れおも付いていくんです。そうすると、今度はタイガが私にくっついてきてくれます。外で少しくらいイヤなことがあっても、タイガをなでていると忘れられますね」

 やさしい眼差しでそう話した立花さん。やっぱり、タイガ君はこれからもずっと「立花タイガ」であり続ける気がします。

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