地震が起きたら…子どもは押し入れの「秘密基地」に! 安全性に着目、留守番中のシェルター活用を提案

川上 隆宏 川上 隆宏

子どものころ押し入れの中でわくわくしながら遊んだ記憶はありませんか。耐震性が比較的高いという構造をいかし、押し入れを地震が起きたときの避難シェルターとして活用するアイデアを、茨城大の研究室が提案しています。題して「HIMITSUKICHI(秘密基地)」。普段は秘密基地のように遊べる空間として利用できるようにデザインし、地震発生時には逃げ込む避難場所として使います。核家族化で共働き世帯が増えた現在、子どもたちだけで留守番をする機会も増えています。日ごろの遊び場を避難場所にすることで、子どもたち自身で身を守れるようになるのではといいます。

提案したのは、茨城大学教育学部情報文化課程の齋藤芳徳教授と、ゼミ学生で「生活デザイン」を学ぶ今井菜摘さん、宇野麗奈さんです。昨年行われた「減災デザイン&プランニングコンペ2019」(芸術工学会主催)に応募し、入選したアイデアです。

一般的な住宅において押し入れは、四方に柱があるほか、中段に板を設けられているため、変形しにくく揺れに強い構造になっているといいます。また、三方を壁で囲まれているため、家具の転倒や飛散してきたモノなどから身を守るのに都合がよく、比較的安全な空間となっています。そこで、押し入れを子どもが日ごろから遊べる空間「HIMITSUKICHI(秘密基地)」に変え、地震が起きた際は避難する「シェルター」として活用することを提案しました。

詳しい内容を齋藤教授に聞きました。

―今回のプランを思いつかれたきっかけを教えてください。

「私も学生も東日本大震災を被災しました。特に学生は避難先から自宅に戻った際に、余震におびえながら過ごした経験があります。震災後も『在宅避難』をする人は多く、住まいの中に『安心できる空間』を作ることの必要性を痛感したことが提案の背景にあります」

―子どものための空間をテーマにされています。

「近年の家庭では共働きが当たり前になり、子どもたちだけで過ごす時間が多くなっています。それは、災害が起きた際に子どもたちだけで被災する可能性が高いということでもあります。実際、先ほどの東日本大震災にあった学生も、被災時に両親は働きに出ていたといいます。そこで、子どもが自分自身で身を守り、災害時に保護者が帰宅するまで、安全に過ごせる空間を検討しました」

―押し入れをシェルターにしようと注目されたのはなぜでしょうか。

「押し入れは一般住宅では比較的揺れに強い構造のことが多いです。また、住宅全体の耐震補強を行う際にも、押し入れは、耐力壁を確保しやすかったり、工事の際に解体・復旧する面積を小さくできたりするため、よく活用されています。シェルターを作るのにあわせて耐震補強を行えば、より住宅を安全な空間や住宅を作ることができるでしょう」

―加えて、災害時のシェルターを日ごろから遊ぶ空間にしようというアイデアが新鮮でした。

「子ども向けのシェルターを考える上で、その空間に対する愛着はとても重要だと思います。子どもは秘密基地のような場所が好きですし、押し入れを改造して作った日ごろから遊んでいる場所を「避難場所」にすることで、避難している間の子どもの不安を減らすことができると思います」

―純粋に、子どもさんは押し入れみたいな空間、好きそうですしね。

「そして『応急・復旧期』といわれる、普段の生活を取り戻すまでの間も大切です。日ごろから遊んでいたシェルターの中は、災害前と近い環境になっています。そこで子どもたちが過ごすことで、災害後も子どものストレスを減らすことができると考えています」

―押し入れを改造して「秘密基地」にするにあたり、気をつけることはありますか。

「子どもたちが楽しめる空間を、子ども目線でデザインすることがおすすめです。ただし、モノは少ないほうが安全ですね。また、使い方や遊び方によっては、補強工事が必要になることもあるかもしれません。押し入れの構造は、実際に現場で見ないと判断できませんので、近所の大工さんなどに相談するとよいと思います」

   ◇   ◇

現在の住宅には押し入れがないケースもあると思いますが、その場合は「押し入れに近い構造のクローゼットがあれば活用できます」と齋藤教授は話します。

そしてなによりも、住宅の中に災害が起きても比較的安全な場所を作り、子どもたちに「地震が起きたときにどのように行動すればいいのか」を伝えておくことが、「減災」の視点ではとても大切だといいます。このアイデアをきっかけに、いざというときにどうするのか、それぞれの家庭で話し合ってみてもよいかもしれませんね。

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