2016年4月の熊本地震で、発生後いち早くペット(主に猫や犬)と同じスペースで過ごせる同伴避難所を開設した「竜之介動物病院」(熊本市中央区)の徳田竜之介院長(56)が監修した防災ハンドブック「どんな災害でもネコといっしょ」が、愛猫家や地方自治体関係者らの間で関心を集めている。徳田院長は「愛する猫を災害から守れるのは飼い主さんだけ」として、猫の防災「かきくけこ」を提唱。「熊本の教訓を、次の災害のために役立ててほしい」と語る。
災害時に避難が必要となったとき、国のガイドラインでは「同行避難」(ペットと一緒に避難場所へ行くこと)が基本とされているが、熊本地震では、避難所で「鳴き声がうるさい」と注意され言い争いになったり、ペット連れの人は徐々に避難所の隅へ追いやられるなどのケースもあり、「他人に迷惑をかけたくない」と、車中泊やテント泊、壊れた自宅で在宅避難をするペット連れ被災者が少なくなかった。
一方、同院では、ペットと飼い主が同じ部屋で過ごせるようにと、震災発生直後から院内をペット同伴避難所として開放。猫と犬の部屋を分け、猫を飼っている人たちは、愛猫と片時も離れることなく、同じ部屋で身を寄せ合いながら過ごした。学校など指定避難所で肩身の狭い思いをし、うわさを聞きつけて同院へと移ってきたペット連れ被災者も多かったといい、同院では避難所を閉鎖する1カ月間で、のべ1500人の飼い主とペットを受け入れたという。
徳田院長は東日本大震災後、被災地視察に行った際、ペットをシェルターに預けざるを得ず、「会いたいけど会えない」と嘆き悲しむ被災者らの姿を見て、「大変な時だからこそ、ペットと人は離れてはいけない」と痛感。2013年に同院をマグニチュード9にも耐えられるよう建てかえ、もしも熊本で災害が起きたときはペット同伴避難所にしようと考えていた。
「ペットは家族の一員であり、心の支えでもあります。人は守るべき者がいると強くなれます。当院の同伴避難所では、食事や散歩、トイレの世話をしたり、早く新しい家を見つけようと奔走したりと、みなさん、ペットを助け、守るためには自分がしっかりしなきゃと、活発に過ごしておられました。一緒に避難している人たちも同じペット連れなので話も合います。困ったことがあったときは互いに協力しあっておられました。ペットと一緒だからこそ人は元気になれるし、大変な状況をも乗り越えられるんです。一時的にでもペットと飼い主を離してしまってはいけない」(徳田院長)
翌17年、徳田院長はペット同伴避難所の必要性を訴えるため、全国3万4000人の賛同署名を集めて国会に提出。環境省は今年2月、熊本地震での経験を踏まえてガイドラインを改訂し、「人とペットの災害対策ガイドライン」を策定したが、徳田院長が言うペット同伴避難の徹底には至っていないのが現状だ。
「日本はペットを飼っている世帯率が2割程度と少ないのも一因なのでしょう。ただ、この2年間で、全国から多くの地方自治体関係者などが視察で当院へやって来られました。災害時の人とペットのあり方はどうあるべきか、関心は着実に高まっていると感じます。これからもペット同伴避難所の必要性を訴え続けていきます」(同)
熊本地震では、猫が飼い主の元を離れて見つからなくなったり、飼い主が体調の変化を見逃してしまい、命を救うことができなかったケースも多々あったという。徳田院長は「災害時に愛する猫をどう守るかを飼い主さんがふだんからよく考え、しっかりと準備をしておくことが大切」といい、猫の防災「かきくけこ」を提唱している。
「か」は飼い主の飼育マナー、責任。日頃から他人に迷惑をかけないようケアを心がける。首輪やマイクロチップなど身元表示もしっかりと。「き」はキャリーバッグ。避難するときの必携品。「く」は薬、ごはん。命に関わる薬、ふだん食べているフードや水を備蓄。「け」は健康管理。ワクチン接種、ノミダニ予防など定期健康診断を受け、ちょっとした体調変化にも気づけるように。「こ」は行動、しつけ。キャリーバッグ、ハーネスやリードにふだんから慣らしておくなど。
今年3月末には、徳田院長が監修し、熊本地震の体験や教訓をまとめた「どんな災害でもネコといっしょ」(小学館クリエイティブ)が出版された。上述の「かきくけこ」の詳細をはじめ、災害時の猫の行動パターンとその対処法、被災シミュレーションなど、愛猫を守るために飼い主がどう行動すべきかがよくわかる実用書となっている。8月には犬編も発売される予定だ。「もしものときのための備えを怠らないことも、飼い主さんの愛情です」と徳田院長は話している。