16世紀のイタリアで活躍した芸術家・カラヴァッジョは、西洋美術史上、そのスキャンダラスぶりで右に出るもののない画家だ。その彼の作品展が「あべのハルカス美術館」(大阪市阿倍野区)で、2月16日までおこなわれている。
その作風は、ドラマチックな陰影と、絵の一部が飛び出して見えるような突出効果、容赦ないリアリズムで、それまでの絵画様式を破壊した。 しかも天才のサガか激昂しやすく、殺人を犯して死刑宣告。逃亡生活のなかでも傑作を残した。そんな一筋縄ではいかない問題児ぶりゆえに、残された作品の裏にある隠されたメッセージを読み解こうとする研究者も多い。死後400年以上たっても熱い議論が絶えない、お騒がせ画家なのだ。
リュートを弾く両性具有的な美少年は、去勢されていた!
カラヴァッジョにまつわる、根強い噂が少年愛。『リュート弾き』は、「カラヴァッジョ様式」ともいわれる陰影・突出効果(ヴァイオリンが飛び出して見える)・リアリズムが生きた代表作だが、なによりザワッとくるのが、描かれた人物のやわ肌、潤んだ目、そして半開きの唇に舌がチラ見えするエロティシズムだ。少女とも少年とも見えるこのモデルは、なんと去勢された歌手、カストラートだったといわれている。
当時、女の声と男の声量を備えた「天使の歌声」を求めて、歌の上手な少年の成長を人工的に止め、カストラートにすることがおこなわれていた(20世紀には禁止されている)。この絵を描いた当時、カラヴァッジョが身を寄せていたデル・モンテ枢機卿の館には、モデルとなったカストラートのような美しい歌手たちが集められていた。高位の宗教者と美少年たち…。あらぬ妄想を掻き立てられるシチュエーションだが、そこは想像におまかせするとして、カラヴァッジョとモデルが交わした熱視線は、この絵にリアルに描きとめられている。
世界最古のゲイアイコンも、カラヴァッジョが描くと生々しい
矢で射抜かれた美しい裸体の男性として描かれる聖人「聖セバスティアヌス」は、宗教画の定番、そして「歴史上最も古いゲイアイコン」として興味をそそられる画題。オスカーワイルドや三島由紀夫も、この美青年殉教者への偏愛をあらわしている。
カラヴァッジョは宗教画としてこの絵を描いたはずだが、体に刺さった矢はたった1本、それを痛そうに眺める表情は、聖人というより生身の若い男。カラヴァッジョは路上の少年や娼婦を聖人画のモデルにしたが(そして、それが物議を醸したが)。このセバスティアヌスも、カラヴァッジョが道を歩いていてザワッときた、グッドルッキングガイだったのかもしれない。
死刑宣告下の逃亡で極まった陰影。暗黒のなかのエクスタシー
カラヴァッジョは34歳の時に喧嘩がもとで殺人を犯し、死刑宣告を受ける。逃亡中に再び傷害事件を起こし、刑務所へ。脱獄してローマ行きの船に乗るも、逮捕され船から降ろされ、その地で病死した。この逃亡の4年間のあいだに描いた傑作が『法悦のマグダラのマリア』だった。
娼婦だったマグダラのマリアが神の許しを得た瞬間だが、女の唇は青ざめ、目から一筋の涙が。そして背景の暗すぎる闇。法悦(エクスタシー)の歓喜というより、不安定な精神状態のなかで恩赦を求めたカラヴァッジョの悲嘆が込められているように見える。カラヴァッジョはこの絵を携えてローマで恩赦を求めるつもりだったが、絵だけがローマへ。恩赦が認められたのは、彼が38歳の若さで亡くなった後だった。
さすがイタリア。ヴォーノ!な、グルメ記念グッズにも注目
展覧会では、紹介した作品以外に、カラヴァッジョの同時代の作家や、カラヴァッジョに影響を受けた作家たちの世界も堪能できる。そして、イタリアといえば美食。「あべのハルカス美術館」の上階、17階のカフェ「CIAOPRESSO」で、記念のカプチーノが飲めます。ミュージアムグッズには、パスタやオリーブオイルなど、イタリア食材も豊富だ。
『カラヴァッジョ展』 http://m-caravaggio.jp/