みなさま、こちらを御覧ください。まるで映画の世界から抜け出してきたかのような、レトロな姿のバスガイドさんでございます。…実はこちら、実は宮崎県を拠点にするバス会社・宮崎交通のバスガイドさんです。1954(昭和29)年にこの制服が導入されてから、この令和の時代まで半世紀以上、かたちを変えることなく、髪型や制服の着こなしの細かい決まりも受け継ぎながら、古き良きたたずまいを守り続けてきました。宮崎といえば一昔前は南国情緒あふれる国内屈指のリゾート地として、修学旅行や新婚旅行で多くの人たちが訪れていた場所。華やかなりしころに訪れた人々が、ふたたび宮崎を訪れ、思い出の中の姿と変わらぬバスガイドさんの姿に驚くといいます。
会社のシンボルカラーでもある濃紺に染まるトルコ帽にツーピース…それが宮崎交通のバスガイドさんの制服です。変わらぬ伝統を守り続けているのは、11月から3月にかけて着る「冬服」。ちなみに、印象的な大きな白い襟は、ジャケットに安全ピンでつけているといいます。
「若く入社した人は、この制服のスタイルが古すぎて、どう着こなせばいいのか分からず悩むようです。先輩たちの様子を学ぶことで、徐々に着こなせていくようになっていきます」と話すのは、同社でバスガイドを務め、貸切バスなどに乗車している宇都宮由美さん。
制服着用には実は細かい規則がいっぱい。「髪の毛の色は黒」「髪が長い人はお団子アップに。短い人も襟を魅せるために、短くカットを」「お団子アップにするときには手作りのリボンを使うこと」などなど…。ただ、それも、美しい着こなしを実現させるために自然に生まれてきたもののようです。
「制服を着ると、気持ちがぴりっとします」と話す宇都宮さん。制服の持つ歴史の重みもさることながら、「地域には往年のOBガイドさんもたくさんおられますし、立ち振る舞いを見ておられる方々がいます。制服を着て談笑していたところ、見かけた方から『ガイドさんが口を開けて笑っているなんて』と指摘いただいたこともあるんですよ」。…こうした伝統的なスタイルは、地域の人たちの思いと眼差しに磨かれてきたともいえそうです。
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バスガイドさんといえば、かつて非常に人気のあったお仕事。1963(昭和38)年には「100万人の娘たち」という、宮崎交通のバスガイドさんが主人公になった映画があったそうです。主演女優は・岩下志麻さん。映画宣伝のスチール写真があるのですけど、うわーっ…カッコいい!超モダンガールって感じですよね。
ちなみに映画の中ではパーマをかけている人も多くて「現在とは違い、大分自由な着こなし(宇都宮さん)」なのだそうですが、こういった映画の影響もあって、同社の制服は全国的にも知名度が高いそう。
もともと全国でも先駆けてバスガイドを導入していたという同社。ピーク時には200人くらいいたそうですが、今現役を務めているのは7、8人ほど。近年には制服を作っていたお店が廃業するという危機もあり、同じデザイン、同じ生地感の制服を再現してくれる業者を探すのに苦労したこともあるそうです。
それでも、過去宮崎を訪れて、観光バスに乗ったことのある人たちが、ふたたび宮崎を訪れて自分たちの姿を見たときに感激してくれるといいます。「昔修学旅行で訪れた方が、私たちの制服姿を見て、変わらないね、懐かしい、といってくださいます。やはりこの大きな白い襟は、記憶に残りますよね」…。ずっと変わらない制服が、いまこの瞬間と、輝いていた青春の思い出とを、時空を超えてつなぎあわせてくれます。
なお、現在の同社の制服は1年を通して2パターン。夏服を兼ねる合服は、7部袖にフレアスカートという組み合わせになり、こちらは何度かかたちが変わっているそうです。