一度は救えなかった野良猫の命 「キキにできなかったことを!」と勇気を出してジジの保護を決断

木村 遼 木村 遼

 2019年3月のことだった。私たち夫婦が兵庫・宝塚市内で代表を務めている動物愛護・福祉協会「60家」に、野良猫保護の手伝いをして欲しいと相談があった。自宅マンションの庭に居ついた黒猫を引っ越し先へ連れて行きたいというものだ。

 引っ越しは1週間後。それまでに保護しなければならない。直ぐに現場に出向き、庭に案内してもらうと、早速ターゲットの猫を発見した。名前はジジ。夜で周囲は暗い上に黒猫ということで確認が困難と思われたが、室内の光の反射で目からビームの様な光を放っており、しっかりと確認が取れた。

 ジジは雰囲気がいつもと違うと感じたのか、光った目がキョロキョロして警戒心が伝わってくる。この日は餌を与えないようにしてもらっており、空腹の状態だったが、セットした捕獲器を警戒して保護することができなかった。

 普段は家に入って寛ぐこともあると聞き、その時にこっそりドアを閉めて部屋に閉じ込めてもらう様にお願いをした。2日後、部屋に入ったと連絡が入り、すぐに現場へ向かうと、おびえたような顔のジジがいた。怖い思いをさせてしまったなと申し訳ない思いで、ジジをバスタオルで包み込み、無事に保護。まだ去勢手術ができていないことと健康状態を診てもらうため、そのまま動物病院まで連れて行った。

 診察の結果、ジジはエイズを持っていたが、まだ発症しておらずエイズキャリアだった。去勢手術も無事終わり、家族に迎えられて家猫となった。依頼主は現在、60家のボランティアとして熱心に協力してくださっているが、ジジを保護しようと強く思った背景には、もう1匹の猫の存在があった。

 ジジが現れたのは3年前の5月ごろという。その2カ月後に毛並みのとてもきれいな茶白の雄猫も現れた。迷子かもしれないと思い、病院やSNSで問い合わせたが反応はなく、この子をキキと名付けた。しかし、2匹は仲が悪く、庭ですれ違う度に喧嘩をする。ともに毎日庭に来てはご飯を食べ、庭に作った猫ハウスや家の中で寝て帰るが、常に別行動だった。

 しばらく、そんな日常が続いたが、キキは次第によだれが増え、薬を飲ませても食欲が落ちていった。依頼主の方は、どんどん弱っていくキキを目の当たりにし、焦ったという。

 「保護したい、病院に連れて行きたい。でも、治療費はどれだけかかるのか?猫が飼えないこの家でその後どうしたらいいのか?」

 先のことばかり考えてしまい行動を起こす勇気が出なかった。昨年の7月、大雨が続いた日に弱ったキキが家に来た。少しご飯を食べ、家の中に入って仮眠を取り、また雨の中帰って行った。それがキキを見た最期だった。

 依頼主は「ほんの少しの勇気があれば…。勇気を出して保護してれば…」と後悔し、同時に「ジジを同じ目に遭わせてはいけない!」と思った。それからはジジとの距離を縮めるため必死だった。とにかく保護して去勢手術を。そのために引っ越し先を探し、今年3月にようやく物件が見つかったのだった。

 当初はこれでジジを保護できると簡単に考えていたという。しかし、思っていた以上に捕獲は難しかった。近隣の保護団体に問い合わせると「捕獲器は貸せても保護の手伝いはできない」と言われた。

 引っ越しまでのタイムリミットが1週間を切ったところで、60家のメールマガジンに辿り着き、保護の依頼をしたという。家猫となったジジはなかなか懐かず、はじめは昼夜問わず鳴き叫んだ。心が折れそうになったこともあったそうだが「キキと同じ目に遭わせたくない!ジジを守る!」という思いが支えとなった。半年も経つと泣く回数も減り、鳴き声も穏やかになっていった。

 いまだにシャーシャー言って、お触り禁止だそうだが、いびきをかいて寝ているジジを見ると本当に保護して良かったと心から思っているという。懐かなくてもいい。ジジがケガもせず、寒さや暑さに苦しまず、飢えることもない。それだけでいいと。

 飼い主は最後に「ジジの記事を1人でも多くの人が目にし、過酷な生活をしてる野良猫に家族ができたらいいなと願うばかりです」と語った。ジジも家族の愛情には、きっと気付いているだろう。

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