元タレントの田代まさし容疑者(63)が覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで宮城県警に逮捕された。覚醒剤での逮捕は4度目となる。2014年7月に出所後、薬物依存症リハビリ施設「ダルク」でスタッフとして働くなど、更生に向かう途上にあると思われていただけに、周囲の衝撃は大きかった。田代容疑者と実際に交流のあった教育家・水谷修氏は、薬物で命を落とした多くの若者と向き合った体験を踏まえてドラッグの恐ろしさを訴えた。
◇ ◇ ◇
11月6日、田代まさし容疑者が、覚醒剤所持の現行犯で逮捕されました。これは、彼にとって幸せだったと考えています。
私は、夜間定時制高校の教員となった1992年に1人のシンナーを乱用する若者と知り合いました。何とか彼を救いたい。そんな思いで彼とともに暮らし、そして彼をシンナーの魔の手から救おうとしました。しかし、彼は、命を失いました。あの日から、薬物(ドラッグ)を、最も憎い敵として戦い続けてきました。この戦いは、敗北続き、すでに、65名の関わった若者たちを失いました。
ドラッグは、たった二つの言葉で定義できます。一つは、やったら止められないもの(依存性物質)、もう一つは、やったら捕まるもの(違法物質)です。
特に、問題なのは、この依存性です。たかが、タバコの中のニコチンというドラッグでさえ、多くの人が止めることができないのに、それよりはるかに依存性の強い覚せい剤は。
ドラッグは、人を3回殺します。まずは最初に頭です。ドラッグのことしか考えられないようにします。そして、次に心です。ドラッグを手に入れるためなら、平気で嘘をつき、愛する人を裏切ります。そして、最後に、体を殺します。
ドラッグの専門家の間では、「1対3対3対3」ということばが、よく使われます。それは、覚せい剤等のドラッグを使用した人の1割は、命を失う。3割は、刑務所か精神病院に。3割は、行方不明(つまりどこかで使い続ける)、残りの3割が、専門家やダルクなどの自助グループの助けを借りて、回復への道を歩むという意味です。今回の逮捕で、彼は、最悪の事態、つまり死から逃れることができました。それだけでも、よかったと考えています。
じつは、彼が、2010年9月にコカインの所持で逮捕される直前に、彼をサポートしていた人から、彼の復帰の手伝いをして欲しいと頼まれました。私は、その時「田代君をあなたが大切に思うならば、彼を今は捨てることだ。そして、私の施設に預けることだ。こんなことをしていたら、彼は再度使う。ドラッグは、愛の力では勝てない」と言って断りました。相手は、「夜回り先生を見損なった」と激怒していました。
専門家は、ドラッグからの回復には、「底つき」が必要だと考えています。つまり、それまでの人間関係や仕事、家族、すべてを失い、そんな中で、過去をすべて捨てて救いを求めてこなければ、救えないということです。田代君は、まさにこの「底つき」まで行っていなかった。それが、今回の事件を引き起こしました。私は、彼を愛した、彼の過去を利用しようとしたすべての人を憎みます。
でも、彼はまだ生きています。罪を償い、過去のすべてを捨てて、「底つき」をして戻ってくれることを祈っています。
彼が、この文章を読んでくれることを祈って、彼に最後の忠告をします。日本の刑務所は、いとも安易に睡眠薬や精神安定剤を使用します。収監後の処遇の安易さを考えてでしょう。しかし、これは、大変危険なことです。私の所には、覚せい剤の乱用で刑務所に入り、精神科薬の依存症で刑務所から戻ってくる人たちからの相談が絶えません。ぜひ、刑務所では、苦しいでしょうが、精神科薬の処方を使わず、今回は、きれいにドラッグを抜いて戻ってきてください。それができたなら、あなたのためにできるかぎりのことをします。