カニに取り憑かれた70歳女性が前代未聞のカニ本を出版 大学院でカニ文化を研究

黒川 裕生 黒川 裕生

突然ですがクイズです。

11月6日は何の日でしょうか?

正解は……ズワイガニ漁の解禁日!

この日の夕方から、新聞やテレビのニュースでは水揚げされたばかりのズワイガニが躍り、カニシーズンの到来を華々しく告げるのが“お約束”となっていますよね。

さあ、では次の問題です。

この「漁解禁日のカニ報道」が始まったのはいつ頃からでしょう?(A)

はい次。

大阪・道頓堀のランドマーク「かに道楽」の創業者今津芳雄の出身地は?(B)

次。

カニの産地でカニを食べる旅行「カニツーリズム」が始まったのはいつ頃?(C)

次。

カニの本場として知られる兵庫県北部の香美町・香住で、最初に宿泊客にカニすきを出したとされる宿はどこ?そしてそれはいつ?(D)

…もうよろしいでしょうか。こういったカニ、特にズワイガニにまつわる歴史や文化を多角的に掘り下げた前代未聞の研究書にしてエッセイ本「カニという道楽 ズワイガニと日本人の物語」が10月、刊行された。筆者は兵庫県西宮市在住の広尾克子さん、70歳。カニ愛と旺盛な知識欲が高じて60代で大学院に入学し、食文化的な見地からカニ研究に携わってきた異色の経歴の持ち主である。クイズの答えはこの記事の最後で。

広尾さんは大学卒業後、旅行会社で29年間勤務。主に海外旅行の企画を担当していたため、仕事ではカニとの縁は全くなかったという。一方プライベートでは、友人たちと山陰地方までカニを食べに行く旅行を40年以上、毎年続けている。

そんな広尾さんに転機が訪れたのは約10年前。ある老漁師から「昔はカニなんて価値がなくて、いくらでも浜に転がっていた」と聞かされたのだ。興味を覚え、自分で調べようとしたところ、これまでカニの文化や歴史について詳しく書かれた本がないことに気づいたという。広尾さんは「ならば自分が」と一念発起。2013年に関西学院大学大学院の社会学研究科に入学し、カニ食の社会史やカニツーリズムの研究に没頭してきた。本書は、その成果を一般向けにやわらかく書いたものだ。

本は全5章で構成。ズワイガニの生態や地域ごとの名前の違い(松葉ガニ、越前ガニなど)の簡単な解説に始まり、都市部にカニ食を広めた「かに道楽」の功績、JRの「かにカニエクスプレス」に代表されるカニ旅行の歴史、カニ産地のそれぞれの地域性などについて、広尾さんが実際に足で稼いだ情報を基に執筆している。現地で見聞きしたことも随所に反映しており、カニの選別や浜ごとに色が異なるタグの実情、漁師の後継者不足のためインドネシア人の技能実習生に頼らざるを得ない現実などを指摘した箇所は読み応えがある。

もともと学術論文を目指していたこともあり、漁獲量に関するデータや古い文献などにも徹底的に当たったことが窺える。なお個人的な話ですが、神戸新聞記者としてカニの本場・香住で2年半勤務した私が読んでも「へえ」と感心すること、知らなかった事実がわんさか書かれておりました。しかも文章がこなれていて、滅法面白い。正直に言いましょう。完敗です。

広尾さんは「カニが今のような特別な食材になるまでに、どんな努力や工夫があったのか。この本を読めばその背景がよくわかりますし、カニのことをもっと好きになってもらえると思います」と話している。

「カニという道楽」は税抜き1500円。全国の書店で発売中。

■西日本出版社 http://www.jimotonohon.com/annai/a1459_kani.html

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