寝つきが悪いとお悩みの方、「寝られない」と思っている間も実は「寝ていた」ということがあるんです。それを実体験したのが、10月現在で51万人以上が順番待ちをしているという日本初の頭のほぐし専門店「悟空のきもち」。頭皮の下にある「頭筋膜」をもみほぐされるうちに寝落ちし、その間、舟をこぐように、此岸(しがん=現世)と彼岸(向こう側=夢)を行き来した「睡眠レポート」をお届けする。
「悟空のきもち」は2008年に京都で開店し、大阪・心斎橋、東京・原宿、銀座と国内4店舗を展開。記者は「死後の世界」をイメージしたという銀座店を訪れた。ビル10階までエレベーターで上がると、入口には巨大な仏頭が…。ヒーリング系の音楽と極彩色の照明に彩られた「三途の川」と称する通路を歩いて施術室へ。この部屋で、生きながらにして睡眠という名の〝あの世〟を体感し、再び川を戻って現世に帰還するというわけだ。
同店のセラピスト・池田瞳さんは 「幼少期の夢を見たという人が多く、走馬燈の夢を見て現世に帰ってきていただくのが当店のコンセプト。睡眠はアトラクションです」と説明。「睡眠を楽しんでいただくことが第一。マッサージやツボを押すということではなく、頭皮の下にある薄い筋膜をもみほぐすことで緊張をほぐしてリラックスされ、眠りにつきやすくなります。夜眠る時の深い眠りではなく、寝たり起きたりの感覚」と説明し、「頭を中心に顔まわり、肩、デコルテ(胸)をほぐします。取材ということは忘れ、何も考えずに身を委ねてください」とアドバイスされた。
だが、記者はリクライニングシートに横たわっている間も、もう一人の自分が天井から俯瞰してメモを取っている感覚だった。60分一本勝負。最後まで眠れないのでは…と思っているうち、こめかみ付近の側頭部をほぐされ、頭頂を刺激されているうちに店内の音楽が脳内にあふれてきた。
スプーン状にした池田さんの手のひらで眼球周辺を覆われた時に取材を忘れた。その刹那(せつな)、同店が掲げる「絶頂睡眠」に入ったのか。施術の指さばきを認識しつつも、現実に会うことのない人と話している自分がいて、それは紛れもない夢。一方、これは夢だと自分に言い聞かせる自分もいて、夢と現実が薄い膜を挟んで表裏一体の状態にあった。
実際はどうだったのか。池田さんは「15分くらいから呼吸が寝息になって、40分くらいは寝られていました」と明かした。せいぜい20分くらいかと思っていたが…。「寝ていても施術の感覚を覚えている方は結構いらっしゃいます」と指摘。気になる頭部の状態は「頭頂がむくんでいました。側頭筋はこっていたのでしっかりほぐさせていただきました」という。
国内4店舗のキャンセル待ち合計は51万1095人(10月時点)。国内全店で毎月約1万人が施術を受け、3カ月先まで予約は満杯だという。施術後に予約するか、ホームページをまめにチェックするか、今年5月に本格オープンしたニューヨーク店で予約して現地に行くか。方法はこの3つ。9割前後は施術帰りに予約するリピーターで、新規の人だと数字上は「50年後」になる。今後、スタッフや店の規模を増やして対応策を進めるという。
これほどの人気となった理由とは。池田さんは「帰られてから寝つきがよくなり、1週間くらい持続すること。ここはあくまで体験の場で、効果は家に帰ってからです」と補足した。
施術後の1週間、記者は頭に輪がかかった状態を体感した。「西遊記」で孫悟空が頭に付け、三蔵法師が経を唱えると締めつける金色の輪のように、夜中になると『早く寝ろ』とばかりにキュッと締まる感じがして、悟空の気持ちがよく分かった。