令和三年に、伝教大師最澄の1200年大遠忌を迎える「比叡山延暦寺」(滋賀県大津市)。その大書院で『ゲゲゲの鬼太郎と比叡山の七不思議展』が、12月8日まで開催されている。賓客を迎えるための延暦寺の迎賓館ともいえる「大書院」の一般公開は、今回が初めて。
風格ある書院造りの建物に展示されるのは、「ゲゲゲの鬼太郎」(水木しげる原作の漫画)のキャラクターたちが、比叡山の七不思議のなかに描かれる日本画。現代の絵師とおなじみの妖怪たちの、怖かわいいコラボレーションだ。
作品を手がけたのは、「豊和堂」(京都市上京区)のアートディレクター兼絵師・山田真也さんと友禅絵師・平尾勉さん。豊和堂は、これまでにも琳派や若冲に、初音ミクや手塚治虫のアニメキャラクターなどを融合させた日本画を制作してきた。今回は、比叡山延暦寺参拝部長・今出川行戒さんが「自分自身が、妖怪好きということもあって」(笑)、豊和堂とこの展示を企画。「比叡山七不思議は僧侶の間で口づてに伝わってきたもので、それを誰もが知るキャラクターとともに表現してみようと思いました」。比叡山七不思議には諸説あるが、ここで展示されるのは「比叡山公認バージョン」。これもまた、初公開である。
さて、その比叡山七不思議をめぐっていこう。
其の一「一つ目小僧」。東棟・総持坊という修行道場に、一つ目の奇怪な僧の絵が掛けられている。修行僧を厳しく指導した慈忍和尚が、死後も恐ろしい姿で戒めをしているものだといわれている。
其の二「なすび婆」。東棟・南光坊社に現れるなすび色の老女。老女は一度地獄に落とされたが、仏の慈悲で比叡山に住むことを許された。織田信長が比叡山焼き討ちを図った時、この婆が大講堂鐘楼の鐘をついて知らせたという。
其の三「船坂のもや船」。東棟・船坂で、酒を飲んで帰る途中の山法師が、もやの中に女の亡者を乗せた船を見た。法師は亡者と目が合ったとたんに気を失い。翌日死んでしまった。
其の四「おとめの水垢離」。東棟にかつてあった五智院で、夜中に僧が仏間で物音がするので目を覚まし、谷あいで水垢離をしている女を目撃。女は僧に「仏間の位牌は私のもの」と告げて消えた。
其の五「一文字狸」。西棟・にない堂の修行僧・真弁が、素直になれない性格を直したくて狸の彫刻をはじめた。ある夜、「仏道修行のために彫るなら助けてやろう」と大狸が現れた。
其の六「大蛇」。横川・龍ヶ池で人に危害を与えていた魔性の大蛇。高僧が蛇に「小さくなってみよ」と命じ、小さくなった蛇を念力で閉じ込め、龍ヶ池弁天のそばに侍らせた。
其の七「六堂踊り」。横川中堂が淀君の発願で再建され、お盆に盂蘭盆会法要がおこなわれた。夜中に観音様が出現。六堂の亡者たちが集い、人も共に踊った。観音様は人間に「芸には真心を込めなければならない」と解き、天人の延命の舞が披露された。
会場となる延暦寺大書院は、建築も見応えたっぷり。設計は京都市役所の本庁舎を手がけた武田五一。得意の和洋折衷テイストが、書院造りのなかの優美なディテールに発揮されている。現代では再現不可能な、木曽檜による豪華な木造伝統建築のオーラも堪能したい。期間は12月8日まで(11月1日〜5日は休展)。
『ゲゲゲの鬼太郎と比叡山の七不思議展』 https://www.hieizan.or.jp/archives/3966