キルトの下は「コマンドー!」 ラグビーW杯の大一番前に検証、スコットランドの民族衣装

北村 泰介 北村 泰介
伝統衣装「キルト」を身につけ記念撮影をするスコットランドの男性ら=9月30日、神戸市内
伝統衣装「キルト」を身につけ記念撮影をするスコットランドの男性ら=9月30日、神戸市内

 ラグビーW杯の日本開催を実感することの一つに、出場国のサポーターと街中で遭遇することにある。中でも、日本と同じA組で、13日に8強進出をかけた大一番で激突するスコットランドの民族衣装が注目される。日本では〝男性がはくスカート〟と一般的に解釈されているが、実はスカートとは似て非なるもので、正式名称は「キルト」という。さらに、その下には〝何もはかない〟という「スコッチ伝説」もある。真偽を確かめるべく、スコットランド人や現地文化に詳しい日本の専門家に話を聞いた。

 キルトについて、NPО日本スコットランド協会の三村美智子理事は「祖父、父、息子とファミリーで受け継がれ、今も結婚式で家族が同じ色合いでそろえる、家を代表する正装です。ラグビーの国際大会でもキルトを着ます」と指摘。200年くらい前まで、その下には何もはいていなかったといわれているが、三村さんは「今はもちろん普通のパンツを下にはいて、ちゃんと保護されているようです」と説明した。

 この〝キルトの下に何もはかない説〟について、都内でキルトを扱う英国雑貨専門店ブリティッシュ・ライフの犬山貴雄代表は「それは現代では都市伝説に近いと私は思っています。スコットランドの一部の知り合いに聞いた話ですが、スコットランドではキルトの下にパンツをはかないのは、ほんの一部の高齢の老人くらいだそうです。いわゆるかなり古い風習です。現代ではほとんどの方が下着をはきます」と解説した。

 そこで、実際にスコットランド人を直撃して検証すべく、9日の対ロシア戦を生放送した東京・六本木の英国パブを訪ねた。だが、平日夕方の早い時間帯や格下相手ということもあってか、キルトを着て来店するサポーターは皆無。唯一、スコットランドのレプリカユニホームを着た男性に声をかけた。

 ロシアに圧勝してご機嫌の男性は47歳で日本在住。「キルトは着ないの?」と尋ねると、「日曜(13日)の日本戦にはキルトを着て横浜に行くよ」と封印を解く構え。「キルトの下には何かはく?」と問うと、男性は「コマンドー!」と即答し、「知ってるかい?『コマンド―』ってのは、『ノー・パンツ』って意味なんだよ」と付け加えた。

 「コマンド―」はアーノルド・シュワルツネッガー主演のアクション映画のタイトルにもなった、精鋭部隊の兵士を指す言葉だが、実は英語のスラングで「ノーパン(下着のパンツをはかないこと)」を意味する。記者が「リアリー(本当)?」と驚くと、男性は「シュア(もちろん)!今回の日本戦は大事な試合だからね。キルトの下はコマンド―で戦に行くさ」と、台風19号も吹っ飛ばさんばかりに腕まくり。そこには〝願掛け〟も込められているのだろう。

 ただ、他のサポーターに聞くと、「キルトを着るなら下着は付ける」という声が多く、当然ながら、これは個人の志向や自由意志ということになる。中身が見えなければ問題はない。犬山さんは「スコットランドの伝統的行事の際だけは下着を着ない、という方も一部いるようです」と補足した。「キルトの下はコマンド―!」と宣言した男性もその1人だった。

 UKでなく、スコットランドとして力を発揮できるラグビーW杯のような国際舞台もまた、犬山さんが指摘した「伝統的行事」に匹敵する重さがあるのだろう。そして、その場で着用する祝祭的な衣装がキルトであり、「一部にいる」という〝下着を着けない派〟の人にとって、古くからの伝統である〝キルト下のノーパン〟が独立した一つのアイデンティティになっているのかもしれない。

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