ページをくればコーヒーの香り漂う?「大人の絵本」出版 京都の有名喫茶店の主にしてシンガーソングライターの歌、初の書籍化

樺山 聡 樺山 聡

 京都を代表する喫茶店「六曜社地下店」(京都市中京区河原町通三条下ル)のマスターにしてシンガー・ソングライター、オクノ修さん(66)の歌が初めて絵本になった。題名は、オクノさんが架空の街の朝を歌った「ランベルマイユコーヒー店」。深い香りが漂う情景を、広島市に住む画家nakaban(なかばん)さん(44)が「大人の絵本」として描いた。

 戦後の1950年に開店した六曜社の2代目であるオクノさんは、80年代から自家焙煎を始めた。市内の焙煎小屋で焙煎した豆を、店で一杯ずつドリップして提供している。家業に入る前から音楽活動を続けており、多くのアルバム作品を制作しているほか、今も定休日の水曜にライブに立つこともある現役の歌い手として、ファンも多い。

 コーヒーが好きなnakabanさんは20年ほど前に、雑誌でオクノさんのことを知り、弾き語りのアルバムを聴いた。一つ一つの言葉をはっきりと発音する歌い方。日常のふとした喜びや寂しさ、仕事、恋愛をさりげなく歌っていた。

 「フォークソングって聞いたので何かを主張しているのかと思ったら全然違って、まるで映画のように俯瞰した視線で人や心を見つめる風通しの良さがあった。オクノさんってどんな人だろうと思った」。アルバムを出しているレーベルの主宰者を通じて知り合い、オクノさんのアルバムのデザインも手掛けた。

 「ランベルマイユコーヒー店」は、2001年に発売されたオクノさんのアルバム「帰ろう」に収録されている短い曲。「ランベルマイユ」という実在しない街でコーヒーが香る朝を歌っている。オクノさんの歌の中でコーヒーを直接的に歌った数少ないこの曲は、ファンの間でも名曲として人気があり、nakabanさんも強く引き込まれた。

 「その街も店も、どこかに本当に存在しているように感じられた。遠い遠い街で、同じようにコーヒーをすすっている人を想像するだけで不思議と呼吸が深く、ゆっくりになる。そう歌っているように感じた」

 15年ほど前に「絵本にしてみたい」とオクノさんの了承を得て企画したが、コーヒーの絵本は子ども向けではないなどの理由で出版はなかなか実現しなかった。しかし、大人向けの絵本も出版している京都の「ミシマ社」との出会いで念願がかなったという。

 オクノさんは「歌を作った時に思い描いた街の風景とは少し違うけど、新たな解釈で別の形になってうれしい経験になった」と話す。nakabanさんは「朝はすがすがしいだけでなく、仕事を前にしてつらい日もある。そんな朝を励ますきっかけになってほしい」と思いを込める。

 絵本「ランベルマイユコーヒー店」は2376円。

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