即応予備自衛官、営門を一歩入ったら…「少しの間、娑婆とはお別れ」

平藤 清刀 平藤 清刀
警衛所で営門歩哨のチェックを受けてから入門する
警衛所で営門歩哨のチェックを受けてから入門する

訓練出頭日の早朝、着替えや日用品を詰め込んだ迷彩柄の「演習バッグ」を引っ提げて、即応予備自衛官たちが駐屯地にやって来る。

営門歩哨に敬礼をする姿勢は、朝日に浮かぶシルエットだけを見れば自衛官そのものである。

訓練招集命令書と身分証明書を提示し、

「即自(即応予備自衛官)です。訓練出頭です」と、用件を告げる。一応敬語で話しているが、歩哨は入隊2~3年目の若い陸士(兵)だ。即応予備自衛官のほうが何十年も先輩なのは、いうまでもない。

「ご苦労様です。どうぞ」と、中へ通されたら、そこはもう自衛隊である。

「少しの間、娑婆とはお別れだなぁ」という気持ちになる。

自衛官が使う俗語で、駐屯地の外を「娑婆(しゃば)」と呼ぶ。あんまり良い言葉でないことは分かっているが、ご勘弁願いたい。

即応予備自衛官には、所属する部隊が日ごろから決まっている。その部隊をコア部隊といい、普段は指揮官以下の本部要員と、基幹要員としてフルタイムで勤務する常備自衛官が勤務している。

自分が所属していたコア部隊では、訓練初日の集合時間は、移動時間を考慮して午前9時だった。ただし、遠方に住んでいて始発に乗っても間に合わない者は、前泊といって、前日の夜から出頭して泊まり込んでいる。

訓練期間中に寝泊まりする居室へ行くと、いつもの顔ぶれが先に着いている。「よぉっ」と入っていくと、その辺にいるあっちこっちから「おはよー」「押忍っ」「うぃーっす」という声が返ってくる。

ふだんは会社員だったり自営業だったり、あるいはフリーターをやっている面々も、営門を一歩入ったら、同じ部隊の仲間なのだ。と同時に、駐屯地の中にいる間は、当然ながら自衛官としての態度や立ち居振る舞いを求められる。中の生活は、現職の自衛官と何も変わらない。朝の起床から始まって、日朝点呼、朝食、朝礼、午前の課業、昼食、午後の課業、終礼、夕食、入浴、点呼、消灯で1日を終える。

夕方、訓練を終えて娑婆へ一杯飲みに出かけることはできるが、外出申請を書かねばならなし、帰隊時限(門限)も決まっている。

ところで、予備自衛官だった自分が志願して即応予備自衛官に採用された当時、割り当てられた宿舎は小さく、収容人数が少なかった。それは旧帝国陸軍が使っていた木造の兵舎で、大正時代に建築されたという。外見はおそろしく古いけれども、内部はパテーションで4~5つに区切って、10人ずつぐらいが入れる小部屋になっていた。でも、それだけでは収容しきれない。多いときで90人弱ほど出頭してくるのだ。よそから演習にやって来る部隊のための外来宿舎や幹部宿舎まで借り受けたり、それでも足りないときは教場に野営用のエアマットを敷いたりして間に合わせていた。どの部屋にあたるかは運しだい。もしかすると教場のエアマットで寝る羽目になるかもしれない。もっとも教場にはエアコンがあるから、真夏の出頭では冷房が効く部屋で気持ちよく寝られるというので、意外に人気があった。

防衛費の金額が毎年、ニュースで取り沙汰される。「これでも足りない」「いや、多すぎる」という議論が絶えないけれど、生活環境は斯くの如くである。一時ネットニュースで、トイレットペーパーを自費で買っているという話が流れた。さすがにあの話は誇張気味だったが、あながちウソでもない。生活環境にまわされる予算が決して充分とはいえないのが、残念ながら事実である。

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