電車に一歩踏み入れると、そこに広がるのは仏の世界-。京都の私鉄「京福電気鉄道」(愛称・嵐電[らんでん])が7月に運行を始めた「嵐電・観音電車」が、ツイッターで話題だ。沿線にある世界遺産・仁和寺(京都市右京区)の協力でデザインした車両。天井には中づり広告でなく千手観音の手をぶら下げ、側面も仏画をぐるりとプリントした。つり革にまで仏像の写真をあしらうこだわりように、「乗ってみたい」「ご利益ありそう」とツイートが相次いでいる。
仁和寺は、平安時代に創建された皇室ゆかりの大寺院だ。江戸時代に建てられた観音堂の修復工事がこのほど終了したのに合わせ、特別公開が5月15日~7月15日と9月7日~11月24日の2期に分けて行われている。
そこに「誘客のチャンス」と目をつけたのが、仁和寺の門前に駅を構える京福電鉄。「観音堂を全面的にアピールしたい」と仁和寺に企画車両の運行を持ち掛け、観音堂に所蔵されている仏像や障壁画のデジタルデータの提供を受けた。
前後のヘッドマークには「観音電車」のロゴと、観音堂の本尊である千手観音菩薩立像の顔面アップをデザイン。車体側面にも千手観音立像を大写しにプリントしたほか、カラフルな彩色を施した明王像や四天王像などもあしらった。
車内の天井を飾る千手観音の手は、人々を救済する慈悲の心を表した。制作を請け負った空間ディスプレー会社の社員が、仏像の画像を印刷した不織布を丁寧に切り抜いた労作だ。高精細な撮影技術と相まって、まるで本物のような立体感を作り出している。壁の広告枠や運転席と車掌席の裏側、ドアの近くにも障壁画を転写したほか、つり革には千手観音立像や二十八部衆をプリントした木板を貼り付け、車両まるごと観音堂に仕立てあげた。
京福電鉄管理部の牧田充史さんは「ツイッターでは『怖い』という書き込みもありますが」と苦笑いしつつ、「仁和寺に興味を持ってもらい、お参りしてもらうきっかけになれば」と「霊験」に期待している。