バルカン半島を中心とした旧共産圏を舞台に、「スポメック」と呼ばれる戦争記念碑などを被写体とした写真集「旧共産遺産」(東京キララ社)が6月に発売された。SF映画的な建造物に意表を突かれ、冷戦終結後は死語となった“西側”で生きてきた者の目には今だからこその新たな発見がある。日本生まれのウルトラ怪獣を彷彿させるモニュメントも気になった。著者である写真家の星野藍さんに話を聞いた。
星野さんは福島県福島市出身。1991年のソ連崩壊については「まだ小さい時であまり覚えていません。後から教科書で読んで『そんなことがあったんだ』と思ったくらいです」という世代の女性だ。2007年に長崎県の軍艦島に渡ったことをきっかけに廃墟の撮影を始めた。11年3月11日の東日本大震災では東京から、原発事故のあった故郷に流れる放射能の空間線量を意識。そして15年に旧ソ連のチェルノブイリと福島をテーマとした作品でデビューした。
今作は17年12月から撮影を開始。トルコ経由でバルカン半島に入り、18年12月まで何度も現地に足を運んだ。写真集には約140点が掲載されている。
中でも印象的だったのは北マケドニア共和国の「イリンデンモニュメント」だ。「ウルトラマン」(66年放送)第17話「無限へのパスポート」に登場する「四次元怪獣ブルトン」に似ている。完成は74年だが、デザインの着想は68年という。手足のない塊状の体からフジツボのような突起が出ているブルトンと、マケドニアという日本人にはなじみの薄い地域のスポメックが政治体制や距離を超えて偶然一致するという“奇跡”があった。
星野さんは「世界的にこうしたタダイズム的な不思議な建物がはやっていたみたいですね」と解説。ウルトラ怪獣の造形においては、20世紀初めに欧州で起きた芸術運働「ダダイズム」の影響が指摘されている。「三面怪人ダダ」は代表格だ。