長いものに巻かれないスタイル。映画には映画ならではの表現があるという確信。その気持ちは長編映画デビュー作『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(2010)から数えて10本目の区切りとなる『凪待ち』でも変わらない。香取から殴られた音尾が放送禁止用語を口走る場面がある。「実はその一言のおかげで、PG12指定になりました。そこを直せばG指定(全ての年齢層が鑑賞可能)になるけれど、配給関係者も『別にそれは大丈夫』という判断だったので修正せず。もちろん褒められたセリフではありません。しかしあの場面で咄嗟に出る言葉としては自然。それを映画だから表現として使用してはいけないというのはどういうことなのか?と思うのです」。
映画本編とは別の部分でも大きな注目を集めた奇妙奇天烈な傑作『麻雀放浪記2020』を放ったかと思えば、シリアスな『凪待ち』を作り上げるふり幅。名前で観客を呼べる数少ない映画監督の一人となったが「自分の名前でお客さんが来てくれるという実感はありません。ただこうしてお仕事をコンスタントにいただけるのは嬉しい。まさか香取さん主演で映画が撮れるなんて…。エロビデオばかり見ていた中学時代の自分に教えたい」と笑い飛ばす。
映画監督として撮影現場を仕切る際のモットーは、暴力的な画面とは裏腹に「怒らないこと」で「ちゃんと挨拶をする。不必要に人を不快にさせない。俳優もスタッフもアイデアを自由に出せる環境づくりを意識。もちろん人がやっていることなのでイライラしてしまうこともあるけれど、怒ることは極力やめようと思っています」。風通しのよさが良質に繋がると信じているし、実際そうなっている。
ヒットメーカーになろうとも、心の底にある危機感と飢餓感は変わらず。「毎回、これで終わるのではないか?と思っている。だからこそ、これが映画監督として最後ならば思いきりやるしかない!という気持ちで臨む。ほかの人とは絶対に違う事をやってやる、それの連続。常に一本入魂。先々の計算なんてできないし、自己プロデュース的なことをやっている余裕もない」。
不器用を自覚するが「これからもスタンスは変えずに、自分が面白いと思う映画を作っていく。自分自身のクオリティを上げるために作品規模を大きくしつつ、また数年後に『止められるか、俺たちを』(2018)のような自主映画的な作品も手掛けたい」。ひょうひょうとしているが、曲げない信念がある。早くも巨匠の風格が漂っている。