『蔵六の奇病』『恐怖列車』『怪奇!毒虫小僧』『鱗少女』など70年代から90年代初頭にかけてホラー漫画界をリードしてきた怪奇漫画家・日野日出志(73)が今、再びスポットライトを浴びている。
2018年8月に発売された銚子電気鉄道のスナック菓子「まずい棒」のために書き下ろした絶妙なイラストがSNSで話題を呼び、約15年ぶりの新作であり絵本デビュー作『ようかい でるでるばあ!!』(絵:日野日出志・文:寺井広樹)が6月27日に発売される。さらに過去作品がコンビニ限定コミックとして復刻され、ドキュメンタリー映画の撮影も行われている。日野いわく「日本の漫画界では過去の人ですが、ネット上や海外では“今の人”になっている」という。一体どういう現象なのか。
日野日出志オールドファンの度肝を抜いたのが、銚子電気鉄道が経営難を逆手に取った自虐的コラボ。日野によるイラストが描かれた「まずい棒」の発売とともにその話題はネットニュースで大きく取り上げられ、販売本数は100万本を突破。日野書き下ろしのキャラクター・まずえもん(魔図衛門)は、今では銚子電気鉄道のイメージキャラクターと化し、イラスト入り缶バッチやTシャツが販売されるほどの人気ぶりだ。
この広がりに戸惑っているのは、日野自身だったりする。「イラストのお話をいただいたときは『どうして俺に?俺のイラストを使っても売れないよ』と。でも自分としては面白いなぁと思ったので、サラサラッと描いてみました。最初に真ん丸目玉の怪奇テイストで案を出したら、銚子電気鉄道の職員の間で『怖すぎる!』って。それでちょっと目を縮小させたらOKになって。今回の大反響は私の手柄というか、銚子電気鉄道の自虐的企画力の勝利ですね」と謙遜する。反響は想定外で「孫からも連絡がきて、私がイラストを描いたということに対して驚いていました。教鞭をとっている大阪芸術大学のオープンキャンパスでも事務の方々が『まずい棒』を大量に配っていました」と笑う。
銚子電気鉄道にも注目が集まり、銚子電気鉄道制作のファンタスティック・ホラーコメディ映画『電車を止めるな!~呪いの6.4km~』のクラウドファンディングも500万円の目標達成。立役者である日野も顧問役として出演する。御年73歳とは思えぬフットワークの軽さだが「面白いと思ったらやってみる。その感覚は子供の頃から変わりません。新しもの好きだし、昨年から始めたTwitterも面白いから続けている。作品作りも同じで、どんなに出し切ったつもりでも『もっとこうした方がいいのではないか?』と思ってしまう。それが次へのモチベーションになる。その連続。満足なんてできない」と探求心が感性を鈍らせない秘訣だ。