“まずい棒”で再注目の73歳!恐怖絵師・日野日出志のモットー「面白いと思ったらやる」

石井 隼人 石井 隼人
73歳で絵本デビュー!日野日出志(撮影・石井隼人)
73歳で絵本デビュー!日野日出志(撮影・石井隼人)

 デジタル時代も強い味方になった。リアルタイムで作品に触れたことのない若い世代から「ファンです!」と声をかけられることも増えたという。「理由を聞くと『ネットで読んで好きになった』とか。そういう意味では、私のような作家はデジタル時代に合っているのかもしれません。本として書店に並んでいない分、ネット上では制作年に関係なく新作として読まれる。海外も同じ。日本の漫画界で日野日出志は過去の人だけれど、デジタル時代になって新しいファンが増えている」と実感を込める。

 物語を生み出す上で常に意識していた「普遍性」も、自身の過去作が現代でも受け入れられる大きな理由だ。「怖がったり、泣いたり喜んだり、人を好きになったり、恨んだり、その感情は永遠不滅のもの。それを念頭に置いて、流行廃りや時代とは無縁のところで私は漫画を描いてきました。それに不要な規制が多い現代において、若い世代のファンは私の作品の中に自由を感じ取っているのかもしれないですね」と分析する。

 読者の期待に沿った恐怖を生み出す一方で、自分自身に向けて描いてきた部分もある。それが世代を超えて、自由な表現として捉えられている。例えば傑作の一つに数えられる書下ろし漫画『地獄変』。呪われた絵師が自らの家族構成やルーツを紐解きながら、地獄の扉を開くという恐怖絵巻で、絵師が読者に対して「君も死ぬ!」と宣告して斧を投げ飛ばすラストは何度読んでも衝撃的。昭和世代の子供たちを心底チビらせた、現在ではありない展開だ。

 だが日野は、回転して飛んでくる斧を読者ではなく、自分自身に向けて投げていた。「毎日12時間ぶっ続けで漫画を描いても少ない印税しか入らなかった30代。『地獄変』のラストに込めたのは、自分のふがいなさに対する怒りでした。私の漫画が売れないという状況は、世間が悪いのではなく、すべて自分に原因がある。読者に対して斧を投げているように見えるけれど、その切っ先を最初に浴びるのはそれを描いている自分自身。あの斧には『自分よ、もっとしっかりしろっ!』という思いが込められているんです」と創作時の激闘を振り返る。

 漫画家生活52年、日野は73歳にして念願の絵本作家デビューを果たす。昭和を代表する恐怖絵師が、新時代・令和になって新しい分野に果敢に切り込んでいく。『地獄変』のラストで投げた斧は、今も錆びずに鋭く回転し続けている。

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