それでも、幼い頃から祖父や父が作るのを見続け、周囲の先輩たちが使っていた学生かばんは「あこがれだった」と風間さん。大手も中小も製造から手を引く中、「数は少なくなっても、使い続けてくれる人がいてくれる限り、作り続けたい」と2011年に独立しました。
かつては医師の診察にも使われていたという学生かばんは、実は多くの機能が盛り込まれています。ファスナー付きのポケットがあちこちにあり、持ち手裏には折り畳み傘をしまえるベルトや鍵まで。それを熟練の技で100個ずつ4日かけて縫い上げていきます。
数年前には、余った革でビジネス用に茶色やネイビーの学生かばんを試作。インターネット通販の「楽天市場」で販売したところ、昔を懐かしむ人らから注文が舞い込むようになりました。A4の書類も折れ曲がることなく持ち運べ、実は仕事にぴったりです。「いつか、もう一度良さを分かって復活してくれたらうれしい」と風間さんは目を細めます。
最後にもう一つ。実は風間さんは深い「かばん愛」から自ら歴史をたどり、自社のホームページで紹介しています。10年ほど前、一番手前のポケットの盛り上がりについて調べていたとき、当時80過ぎの職人から「上皇陛下と美智子様の成婚パレードがテレビ放映されたころ、ブラウン管のふくらみにヒントを得て作られた」と説明を受けたとか。ほかにフラットでは鍵がかけにくいから-という説もあるそうです。そんな壮大(?)で奥深いところも、魅力なのかもしれません。
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▼アトナ商会 http://www.atona-bag.com/
▼楽天市場店 https://www.rakuten.co.jp/gakuseikaban/
2段マチ黒 9400円、チョコブラウン1万2000円(税込)
※欠品時には店舗に確認を